第630話 その闇人、最悪につき(2)
「第3のあの子ね。私からすれば、あれはあれで可愛らしいけれど。あの子の場合は事情が事情だから、仕方ないところもあるわ。あなたはもっと広い器量を持ちなさいな、キベリア」
「ええ〜、嫌ですよ。私の器量に別に大きさはいりません。嫌なものは嫌なんです。――ほら、おいでクマ」
キベリアはシェルディアのお小言にそう返答すると、リビングの床に座っていた青と白のシマシマパンツを履いている白いぬいぐるみを呼んだ。そのぬいぐるみはキベリアの方を向くと、その小さな足で立ち上がりテクテクとキベリアの方にやって来た。
「うふふ、えい!」
キベリアはそのぬいぐるみを抱きしめると、自分の膝の上に乗せた。キベリアに突然抱きつかれたぬいぐるみは、驚いた様子もなくそのままの表情だった。まあ、例えシェルディアから命を与えられたぬいぐるみといえども、ぬいぐるみが表情を変えればおかしいと言う他ないが。
「お前は可愛いわねー。可愛くないあの子とは大違い」
キベリアは膝の上に乗せたぬいぐるみをギュッと両手で抱きしめながら、ニコニコとした顔になった。キベリアはご機嫌だが、グラマラスな体型のキベリアに抱き抱えられたぬいぐるみは、頭の部分がキベリアの胸部に圧迫されているのが原因か、少しだけ不機嫌そうにも見えた。
「キベリア、何度も言うけれどその子はクマじゃなくてネコよ。いい加減に覚えなさいな」
「分かってますって。でもいいんです。クマっぽいのは事実だし、クマの方がなんかしっくり来るんで」
呆れたような顔を浮かぶるシェルディア。しかし、キベリアは気にはしなかった。もうそちらの方で呼び方が定着してしまっているからだ。
「全く、その子が可哀想だわ・・・・・それで話の続きだけど戻って来てない最後の1人は、第5の子よね。あの欲望に忠実な子」
「ああ、ゾルダートですか・・・・・・私、あいつだけは無理です。クズ過ぎて・・・・・最低っていうのは、ああいうのを言うんですよ」
シェルディアの言葉を聞いたキベリアの顔が、不快そうに歪む。シェルディアが言った「十闇」第5の闇、ゾルダートはキベリアが「十闇」の中で1番嫌いな人物だった。
「まあ、あの子に関してはあなたの意見も分かるわ。あの子は人間の闇の部分を凝縮したような子だものね。正直、私もあまり好きとは言い難いわ。・・・・・・・ただ、あの子の残虐な強さは本物よ」
シェルディアはキベリアの意見を肯定しつつも、ゾルダートの強さを認めた。
「それがなおタチが悪いんですよね・・・・・あいつ自身もずっと傭兵をしてたって事もあって戦闘はプロですし、あいつの闇の性質もかなりえげつないものですし・・・・・・・おまけに頭もいいのも腹立ちます」
キベリアはぬいぐるみを抱きしめながら、軽く息を吐いた。そう、ゾルダートは最低なだけではない。その強さはレイゼロールも、「十闇」の全員も認めている。認めざるを得ないほどに、ゾルダートは強いのだ。
「本当、あいつだけは一生帰って来てほしくないですよ・・・・・・・・・」
無駄だと思いながらも、キベリアはそんな事を心の底から願った。




