第629話 その闇人、最悪につき(1)
「――そう言えば、残りの3人はいつくらいに戻ってくるんですかね?」
8月25日土曜日、午後7時過ぎ。シェルディア宅で夕食後にのんびりとテレビを見ていたキベリアは、ふとそんな言葉を呟いた。
「唐突ね。いきなりどうしたのよ?」
リビングのアンティーク調のイスに腰掛けながら、クッキーを摘んでいたシェルディアは、サクリとそのクッキーを一口齧り咀嚼し終えてから、キベリアの呟きにそう聞き返した。
「いや、ふと思っただけですよ。この前、響斬に会ったじゃないですか? その時に聞いたんですよね。まだ帰って来てない『十闇』はいるのかって。ほら、響斬は最近帰って来た奴ですし、そこら辺の事は知ってそうだったので」
キベリアは首を傾げるシェルディアに、自分の言葉はあまり意味のない疑問である事を伝えた。夕食後ののんびりとした時間の暇つぶし。そのための話題提供。それくらいの認識だ。
「響斬が言うには、たぶん自分より後には帰ってきてないらしいです。って言う事は、今のところ『十闇』で帰って来てるのって、私、シェルディア様、冥、響斬、殺花、クラウン、後ゼノさんを捜しに行ってるフェリートの7人じゃないですか。そのゼノさんを含めた3人は、どれくらいで戻るのかなって。レイゼロール様が招集してから、もうけっこう時間経ってますし」
キベリアは左手で指折りをしながら、帰って来ている「十闇」のメンバーの名を挙げていく。ここでキベリアが言っている、帰って来ているの定義は、レイゼロールの招集以来、レイゼロールの本拠地を訪れたというようなものだ。正確な意味合いではない。
まあ、フェリートに関しては帰って来ているというのは、少々怪しいところかもしれないが、フェリートはあくまで本拠地からゼノを捜しに行ったという程なので、帰って来ている範囲に含めてもいいだろう。というか、それを言うならばフェリート(あとシェルディアも)は最初から本拠地にいたのだし。
「さあ? 残りの3人も色々と独特な子たちだし。でも1番気まぐれなゼノは、まだ戻って来るまで時間がかかりそう気がするけど。あの子に関しては、完全にフェリートの努力次第ね」
「ああ、それはそうですね。というか、ゼノさん招集されてるって事すら知らないんですよね。なんかレイゼロール様との精神的な経路が途切れてるから、招集の合図を送りようにも送れないとか。だからフェリートがゼノさんを捜しに行ったって感じですよね」
シェルディアとキベリアはとある闇人の顔を思い浮かべながら、そんな会話をする。シェルディアもキベリアも、彼の顔を見たのは100年ほど前が最後だ。まあ、それに関しては残りの2人も同じだが。
「うーん、でもゼノさんやっぱり特異な人ですよね。普通、闇人の私たちはレイゼロール様とのパスは切ろうとしても切れないはずなんですけど・・・・・・」
フェリートがゼノを捜しに行った事情を改めて聞いてみると、ありえないという言葉が頭に浮かんでくる。それは、ゼノという闇人がそれほどまでに規格外であるという事を暗に示している。
「ふふっ、あの子は特別だもの。それくらいじゃ、あんまり驚かなくなってきちゃったわ」
シェルディアはキベリアのその言葉に笑みを浮かべた。闇人の中では、ゼノが1番シェルディアと古い仲だ。ゆえに、シェルディアもゼノのどこか特異なところは知っている。
「まあゼノさんだから、で納得するしかないですよね・・・・・・・・後は、150年くらい前に入って来たあの子。あれも色々と特異ですけど、私あの子苦手なんですよね。ずっとツンツンしてて、生意気だし」
キベリアが面白くなさそうな顔で、次の戻って来ていない闇人について触れる。「十闇」の中では、クラウンと同じくらいの新人だが、クラウンとは違いその闇人は礼儀というものを何も知らない。




