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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
623/2051

第623話 怪人としての問い(6)

「・・・・・・笑いたいなら、笑えばいい」

 穂乃影は強がるようにそんな言葉を呟く。確かに自分の戦う理由はくだらないかもしれない。穂乃影が戦っている理由は、誰かのためというよりかは、自分のためと言えるからだ。

 穂乃影は、自分の存在価値を保持したいがために戦っているのだから。

「・・・・・・笑う価値すらないな。だが、お前は俺の問いに答えた。もう、お前に用はない」

 スプリガンは帽子を押さえながら、クルリと穂乃影から体を背けた。穂乃影が顔を上げると、スプリガンの背中が見えた。

「・・・・・・・・じゃあな」

 スプリガンがそう呟くと、スプリガンの前方に闇色の渦が現れ、スプリガンはその渦の中へと消えていった。スプリガンが渦の中に消えると、その渦も溶けるように虚空へと消滅した。

 まるで最初からその存在などなかったように、黒衣の怪人は綺麗さっぱりに消え去った。

「・・・・あれが、スプリガン・・・・・・・」

 後に残された穂乃影は、今しがた自分の前に存在していた怪人の名を呟いた。噂通り正体も目的も分からない得体の知れない人物だった。穂乃影の戦う理由を突然聞いて来た事も意味がわからない。

 正直に言えば、穂乃影は少しスプリガンが怖かった。その奥に秘めているであろう、その凄まじい力も穂乃影は無意識に恐れていたのだろう。

 だが、

「あの人の顔と声・・・・・誰かに似てる気がしたのは、気のせい・・・・・・?」

 穂乃影はなぜかそんな事を思ってしまった。もちろん、()()()()()()()()のに。

 月光が照らす夜の中、穂乃影は数瞬の間立ち尽くしているのだった。













「・・・・・・・・・」

 夜の闇の中、電柱の上に立つ1人の男がいた。黒衣纏うその男は、先ほど穂乃影と問答をしていたスプリガンである。スプリガンは転移の力を使って、視界内にあった電柱の上へと転移していた。眼下には、先ほど自分が立っていた寺が見える。

『くくっ、よう気分はどうだ影人? 満足かい?』

「・・・・・満足なわけあるか。仕方なかったとはいえ、俺はあいつを怖がらせちまったんだぞ。兄貴失格だ」

 心の中に響くスプリガンの力の意志たるイヴの声に、スプリガンで穂乃影の兄でもある影人はそう言葉を返した。

『まあまあ、あんまり気にすんなよ。お前は俺の力で、自分が放つ重圧を多少上げただけじゃねえか。実害も何もありゃしねえよ』

「それは分かってんだよ・・・・・・・だが、問題はそういう事じゃねえ」

 軽くため息を吐き、影人は帽子を押さえた。ここら辺は影人の心の問題だ。

 今イヴが言ったように、影人は先ほど自身の威圧力を多少上げるような闇の力を使った。それは穂乃影を威圧して答えを引き出すためだったが、影人としては正直自分が嫌いになるような力の使い方だった。それが仕方のない事だとはいえ。

『ははっ、そうかい。なら、せいぜい落ち込んでろよ』

「・・・・性格の悪い奴だ」

 どこかいつも通りのやり取りをする2人。しかし、今回は非常に珍しい事に気を遣ってくれたのか、イヴがそれ以上語り掛けてくる事はなかった。

「・・・・・・・・まさか、お前が自分の事を知ってたなんてな。母さんは、お前が20歳になったら教えるって言ってたが・・・・・お前はもういつからか知っちまってたんだな、穂乃影」

 影人は夜空を見上げながら言葉をこぼす。先ほどの穂乃影の言葉の意味を、影人は全て理解していた。穂乃影がいつからか自分の事を、「あなた」と他人行儀に呼ぶ理由もわかった。

「・・・・・・怪人としての役目は終わりだ。今度は兄としてお前に問いかける。お前が抱えてる不安や寂しさをどこまで軽減してやれるかは分からないが・・・・・・・・俺に出来る事はそれくらいしかないからな」

 影人は決意した表情で、夜の闇に穂乃影の兄としてそう宣言したのだった。

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