第620話 怪人としての問い(3)
『お前、けっこう過保護だよな』
『影人、けっこう過保護なんですね』
影人の内心の呟きを聞いたイヴとソレイユが、ほとんど同時に影人にそう念話をしてきた。ソレイユとイヴの念話のリンク(わかりやすく言えば、チャンネルのようなもの)は違うので、イヴとソレイユは互いの声が聞こえていないはずなので、この息のピッタリさは偶然ということになる。
「気持ち悪いけど・・・・・・雑魚クラス」
蛙型闇奴の舌による攻撃を避け続けていた穂乃影は、舌の動きを完全に見極めると右手に握っていた黒剣をスッと振るった。
「ゲコォ!?」
穂乃影の剣が蛙型闇奴の長い舌を切断した。舌の先はドチャッとした音を立て地面に落ち、残った舌の断面からは黒い血が噴き出していた。
「・・・・終わり」
穂乃影は急激に黒い血を流し弱体化している闇奴に向かって距離を詰めると、その黒剣を逆の右袈裟に振るった。
「ゲ・・・・コォ・・・・」
弱体化しているところに、浄化の力を宿した斬撃をまともに食らった闇奴は、ドサリと仰向けに倒れた。そして闇奴は光に包まれ、やがて40代ほどの男性へと姿を変えた。
(ふぅ・・・・・とりあえずはよかったぜ。で、問題はこっからだな)
影人はポケットからペンデュラムを取り出し、ボソリとこう言葉を呟いた。
「変身」
その言葉が世界に放たれた瞬間、夜の闇よりもなお濃い漆黒の輝きが影人を照らした。
「・・・・・・・終わり。今回は、別の意味で多少疲れた」
闇奴の浄化を終えた穂乃影がため息を吐く。闇奴自体は動物型の雑魚クラスであったが、いかんせん今回は闇奴が巨大な蛙であったという事が、穂乃影の精神を大いに削った。穂乃影は虫や蛙といった生物がかなり苦手なのである。
(さっさと帰ろう。もう少しで、転移が始まるはずだから)
穂乃影は地面に倒れている男性を近くの木に寄り掛からせると、変身を解除しようとした。
「変身解――」
穂乃影が光導姫の形態を解く言葉を言おうとする。だが、そこで穂乃影は気が付いた。ザッザッと、何者かの足音が響いている事に。
「ッ・・・・!?」
穂乃影は警戒感を最大にして、右手の黒剣を構えた。いったい何者だろうか。通常の人間は、光導姫に変身した時と同時に形成される人避けの結界の影響を受け、この辺りには穂乃影が変身している限り近づかないはずだ。
(光導姫、もしくは守護者? いや、もしかしたら闇人の可能性も・・・・・・・・)
足音の聞こえる方向に構えを取った穂乃影は、未だに姿の見えない謎の人物について予想した。足音はどんどん近づいている。そして、遂に暗闇の中から1人の人物が現れた。
「・・・・・・・」
闇夜に紛れるような黒の外套を羽織り、同じく黒い編み上げブーツから足音を響かせたその男は、鍔の長い帽子の下から金色の両の瞳を穂乃影へと向けてきた。




