第62話 蹴撃のスプリガン(3)
レイゼロールの突然の宣言に4人は臨戦態勢になる。そんな4人にどうでもよさげな視線を向け、レイゼロールは話を続ける。
「その間に我に攻撃を仕掛けてくるなら、我は先にお前達を殺そう。・・・・・・・・しかし、誓ってやろう。5分間お前達が何も仕掛けてこなければ、我も何もしない。では、ここから5分だ」
それは奇妙な提案だった。陽華、明夜、暁理、かかしの4人にはレイゼロールの考えが分からない。
(・・・・レイゼロールは誰かが現れるのを待ってる? でも一体だれを?)
アカツキは思考を止めない。レイゼロールの目的は大体わかった。しかし、肝心の誰を待っているか、それがわからない。
まだ疑問はある。この結界は先ほどアカツキが試したように、内側からは破れない。もちろん、レイゼロールならばこの結界を解くことはできるだろう。
アカツキの疑問は、外側からならこの結界は破れるのかということだ。
レイゼロールは自分たちを餌に誰かを待っている。ならばここに来るためには、結界を破らなければならない。当然ながらその誰かは結界の外から来るだろう。ということは、結界は外からならば破壊できるか、入れることが前提条件となる。
(光導姫である僕や朝宮さん、月下さんがいるから人払いの結界はまだ機能している。当たり前だけど、レイゼロールが待っているのは一般人じゃない)
そこから導き出せる答えは、光導姫もしくは守護者のような特別な力を持つ者をレイゼロールは待っているということだ。
(考えろ。レイゼロールは僕たちが餌だと言った。なら餌にたり得る理由があるはずだ)
レイゼロールが5分と宣言してから、すでに時間は進んでいる。レイゼロールの力を知っているアカツキとかかしはむやみに攻撃を仕掛けない。すれば、レイゼロールは宣言通り自分たちを殺すだろう。
陽華と明夜の2人も自分たちが攻撃を仕掛けないからか、レイゼロールをただ睨むだけで何もしない。アカツキが考えるに、それは正しい判断だ。
自分たちが餌たり得る理由。まず自分については何の心当たりもない。そこでまず自分を除外して考える。
残りはかかしと陽華、明夜の3人。この3人の中にレイゼロールが餌と判断した者がいるはずだ。
(でも一体誰だ? かかしのことは僕には何も分からない。残りの2人について僕が知っていることは、2人とも新人の光導姫でフェリートに襲われたことくらいしか――)
そこで何かが引っかかった。
(フェリートと戦った。そこに付属する情報は――)
脳裏に蘇るのは河川敷での陽華と明夜、光司との会話。それにこの前に出会ったとき、かかしが自分にした話。
(もしかして――!)
アカツキはレイゼロールが誰をおびき出そうとしているか1つ見当をつけた。
「・・・・・・レイゼロール、君の目的はスプリガンだね?」
アカツキの言葉に他の3人は驚きの表情を浮かべた。ただ、純粋な驚きではなく、その顔色には、なぜといった疑問の色も含まれていた。
「・・・・・・・・さあな。――5分だ、仕方ない。お前達の命をいただこう」
レイゼロールの瞳に殺意の色が宿る。これは覚悟を決めてやるしかないと4人が行動を起こそうとしたその瞬間、
パリィィィィィィィィィィィィン
という音を響かせ、結界の頂点部が派手に破られた。




