第618話 怪人としての問い(1)
『くくっ、女神のやつ鳩が豆鉄砲を食らったような顔してやがってたな。面白え顔だったぜ』
「そこについてはまあ同意だが・・・・・あんまり笑ってやるなよ。普通はあんな事を言ったら多少は驚くもんだからな」
自分の内に響くイヴの声に、影人は肉声でそんな言葉を返した。
神界から地上に戻った影人は、コンビニに寄って飲み物を買い夜道を歩いていた。穂乃影に関する話はもう終わっていた。
『そんなもんかね。俺は別に人間と人間が本当の兄妹じゃないどうこうで戸惑ったりはしねえがな。どうでもいいし』
イヴがケッと吐き捨てるような声音でそう言った。まあ、イヴからしてみればそうなのだろう。
「ま、それは人によりけり。いや、あいつは一応神だから神によりけりか? とにかく、反応にはそりゃ個人差はあるさ」
『随分と余裕だなぁ? つい昨日まで心に余裕がなかった奴がよ。女神の話を聞いて、とりあえずの安心でもしたか?』
影人の声を聞いたイヴが、白けたような声でそう聞いてきた。この捻くれた力の意志からしてみれば、きっと影人の心が乱されている方が面白いのだ。
「とりあえず、ソレイユが俺と穂乃影の関係を知らなかった事の確認が取れたからな。ある程度は安心した」
影人は普段通りの言葉で、イヴの言葉を肯定した。穂乃影が光導姫だと知って、影人が1番気になっていたのはそこだった。ソレイユの話を聞き終えた今、影人の心は穂乃影が光導姫だと知った時に比べれば、かなり普段に近いレベルで安定していると言えるだろう。
(まあそれでも、家族としての、兄としての不安はあるがな・・・・・・)
光導姫は命の危険が伴う仕事だ。その事を知っている影人は、出来れば今すぐにでも穂乃影に光導姫の仕事を辞めてもらいたかった。それが穂乃影の兄としての影人の偽らざる気持ちだ。
しかし、正面切ってそんな事を穂乃影に言えるはずもない。言えば、なぜ影人がその事を知っているのかという事になる。そうなれば、影人がスプリガンだという事もバレかねないからだ。当然の事ながら、スプリガンの事は穂乃影にもバレるわけにはいかない。
それに、影人には穂乃影が光導姫になった理由も気になった。ソレイユの話からすると、穂乃影は金銭を得るために光導姫になったようだが、金を得たいのならば、命の危険がある光導姫よりも、他のバイトを探せばよかったはずだ。当時の穂乃影は中学生だったはずだが、探せば中学生でも働けるバイトはあっただろう。
しかも、穂乃影が金を欲しがる理由も影人には分からない。穂乃影はバイトを始める前までは、普通に母親からお小遣いをもらっていたが(ちなみに影人はバイトをしていないので、今でももらっている)、それほど乱暴にお金を使っている様子はなかった。
それは高校生になった現在でも同じで、穂乃影はそれほど金を必要としているようには見えない。母親が言うには、穂乃影はバイト代のほとんどを家に入れてくれているみたい、との事だった。嬉しいが、もっと自分の事のために使ってほしいと、母親が言っていたのを覚えている。




