第617話 真実は残酷で(6)
「穂乃影は光導姫が金銭を得る事も可能、という箇所で少し反応を見せたと思います。そして全ての話を終えると、穂乃影は光導姫となる事を了承しました。その際、私は穂乃影に名前を聞きました。名前を確認する意味については、単に私がその人物をどう呼べばいいのか分からないという普通の理由と、後で政府に新たに光導姫となった人物の名を教えるためです。でなければ管理や、金銭を得る場合は口座も分かりませんから」
「まあ、そうだな」
ソレイユのその説明に影人は納得したように頷く。陽華や明夜、それに自分の時もソレイユは名前を尋ねてきた。
「ですが、中には本名を全て伝えない子や、そもそも本名を言わない子もいます。まあ、昨今のプライバシー意識の状況を考えれば、仕方がないのかもしれません。そして、穂乃影もそんな子の内の1人でした」
「・・・・・つまり、穂乃影はお前に名字を伝えなかったのか?」
ソレイユの言葉を受けた影人が、予想できる範囲からそう言葉を紡ぐ。しかし、影人の言葉にソレイユは少し微妙な表情を浮かべた。
「確かに、穂乃影は私に名字を伝えはしませんでしたが、最初は名前も名乗ろうとはしなかったんです。私が金銭を得る場合は、名字か名前どちらかは教えてくれないと困ると言って、しぶしぶ穂乃影は自分の名前だけを告げたんです」
「なるほどな・・・・・・・・確かに、穂乃影の場合は名字の方が珍しいからな。穂乃影の名前の方がどっちかって言うと、ありきたりだ」
影人は穂乃影の判断に納得した。自分たちの帰城という名字はあまりある名字ではないだろう。
「その後、私は穂乃影という名前と、彼女の容姿に関する情報を日本政府に教えました。情報の管理はその国の政府の管轄ですからね。・・・・・これが、私が穂乃影があなたの妹だと知らなかった理由の1つです。私はあなたの名字と名前を知っていても、穂乃影の名字を知りませんでした」
ソレイユはそう言って、影人に穂乃影の事を伝えなかった理由を釈明した。いや釈明以前に(話をする前にソレイユも言っていたが)、そもそもソレイユは穂乃影と影人が兄妹だという事を知らなかったのだ。
「・・・・・・・・お前の話は分かった。確かに名字が分からなきゃ、俺と穂乃影が兄妹だってわからねえよな。やっぱり、こういう手違いみたいなもんがあったか」
ソレイユの説明を全て聞き終えた影人は、ふうと息を吐きイスにもたれ掛かった。やはり、ソレイユは意図的に自分に穂乃影の事を隠していたわけではなかった。その事がわかった影人は、とりあえずは安心したのだった。
「というか理由の1つって事は、その他にも穂乃影と俺が兄妹だって分からなかった理由が何かあるのか?」
ふとその事に気がついた影人が、ソレイユにそう質問をした。影人からそう質問を受けたソレイユは、「あー」といった感じの顔で苦笑した。
「その、失礼かもしれませんが、影人と穂乃影の顔がご兄妹なのにあまり似ていない・・・・・・というのが、もう1つの理由です。すみません」
「それは・・・・・もっともな理由だな」
申し訳なさそうな顔のソレイユに、影人は仕方ないといった感じの顔を浮かべた。確かにソレイユの言う通り、自分と穂乃影の顔は兄妹だというのに似ていない。なぜならば――
「そりゃそうだぜ、女神サマ。影人と影人の妹の顔が似てねえのは理由があるんだからよ」
そのタイミングで、今まで黙って話を聞いていたイヴが突然そんな言葉を放った。
「似ていない理由がある・・・・・? イヴさん、それはいったいどういう事ですか?」
イヴの言葉を聞いたソレイユが不思議そうな顔を浮かべる。そして、イヴの言葉を聞いていた影人はハッとある事に気がついた。
「そうか・・・・・・・お前は俺の記憶と知識を知ってるんだったな」
「そういう事だ、影人。で、女神サマに話しても大丈夫だよな?」
イヴがニヤリとした笑み浮かべながら、影人にそう確認を取ってきた。影人はイヴの確認に、首を縦に振った。
「・・・・・・・・構わねえよ。別にそこまで隠す程の事でもないしな」
「ほいよ、了解は取ったぜ」
影人の了承を得たイヴは、ソレイユの方にその顔を向けると何気ない感じでこう言葉を発した。
「簡単な理由だ、女神サマ。こいつとこいつの妹の顔が似てないのは――単に、2人が本当の兄妹じゃねからだ」




