第616話 真実は残酷で(5)
「――くくっ、中々愉快な事を考えてるじゃねえか。影人」
「あ?」
「え?」
突如として、影人とソレイユ以外の第3者の声がこの場に響いた。
影人とソレイユがそんな声を漏らす中、虚空から1人の少女が現れた。
一見すると10代前半の少女だ。身長は140と少しくらい。黒色のボロ切れのような服を纏っている。
紫がかった黒色の髪の長さはボブほどで、その顔立ちは美少女と呼べるほどに整っているのだろうが、少女が浮かべている人を食ったような笑みのせいで、少々美少女とは呼びがたかった。
その少女は奈落色の瞳を影人とソレイユに向けて、更に口を歪ませた。
「いきなり何だ、イヴ。いま真面目な話してんだよ。さっきも黙れって言っただろ」
影人が突然出現した少女――スプリガンの力の意志たるイヴに向かってそう言葉を掛ける。影人は少しだけイヴを睨みつけるように、その金色の瞳を細めた。
「別に冷やかそうなんて思っちゃいねえさ。ただ、こんな時くらいしか、俺は現界できねえからな。ちょっくら動いてみたいと思っただけだ。話の邪魔になるような事はしねえよ。俺も普通に座って話を聞く。それなら構わねえだろ?」
イヴはヒラヒラと片手を振りながら、影人にそう弁明した。弁明したといっても、イヴは変わらずニヤけたような笑みを浮かべているので、あまり弁明した感じはないが。
「まあ、お前の気持ちは分からなくもねえが・・・・」
影人は視線をイヴからソレイユの方へと向けた。影人の視線の意味に気がついたソレイユは、コクリと首を縦に振る。
「私は構いませんよ。イヴさんの気持ちは、私も理解できますし」
「おー、ありがとよ女神サマ。そんじゃ、俺も失礼させてもらうぜ」
ソレイユに軽い感謝の言葉を述べたイヴは、影人とソレイユの間に、闇で黒色のイスを1つ創造した。そして、そのイスにドカリと腰を下ろす。イヴはスプリガンの力の化身。この程度の事ならば造作もない。
「イヴさんもお茶をどうぞ」
「どうもだぜ。おおっ、あったかいな! それにちょっと苦くて甘い。なるほど、これが緑茶ってやつか。いいな、やっぱり体があるっていいぜ。面白え!」
ソレイユからお茶を勧められたイヴが、湯飲みに入っていたお茶を啜った。少し温くなったお茶を啜ったイヴは、無邪気な子供のような顔を浮かべ嬉しそうに笑っていた。そういえば、イヴは緑茶を飲むのは初めてだった。イヴには普段肉体はないので、味を感じるというのは、未知の領域だったのだろう。イヴは今まで見た中で、1番楽しそうだった。
今度色んなものを食べさせたり、遊ばせてやったりするか。影人はふとそんな事を考えた。
「悪い、ソレイユ。話の続きを頼む」
「あ、はい。ええと、確か穂乃影の素質云々の話が終わった辺りでしたね。次からが本題なんです」
影人に話の続きを促されたソレイユは、どこまで話をしたのかを思い出すと、こう話を続けた。
「私は穂乃影に光導姫についての説明を行いました。もちろん穂乃影に説明をしている間は、他の光導姫を闇奴に派遣して相手をしてもらいながら」
ソレイユはそこで湯飲みを持つと、緑茶を少し飲んで軽く息を吐いた。




