第615話 真実は残酷で(4)
「? 影人、なぜスプリガンに変身を?」
「見てりゃ分かる」
影人は右手をテーブルにかざしながら、脳内に穂乃影の顔を思い浮かべる。それを写真のように現像するイメージ。おそらくこれでいいはずだ。
その結果はすぐに現れた。影人がかざした右手の下、テーブルには闇によって創造された1枚の写真が出現した。
その写真に写っているのは、長い黒髪の少女だった。整った顔立ちだが、どこか表情が乏しいその少女は、影人の妹である帰城穂乃影だ。
「・・・・・これが妹の顔だ」
影人は創造した写真をソレイユに手渡し、その金色の瞳をソレイユへと向けた。
「この子があなたの・・・・・・ええと、確か穂乃影と言ってましたね」
「ああ。ついさっきまで闇奴と戦ってたぜ」
写真を見たソレイユが、影人にそう確認してきた。影人はソレイユの確認に首を縦に振る。
「そうであるなら、あなたの妹はランキング75位の『影法師』で間違いはないでしょう。あなたに写真を見せてもらった事で彼女の事を思い出しました」
「ランキング75位・・・・ランカーだったのか、あいつ・・・・・・・」
穂乃影が光導姫ランキングに名を連ねている事に、影人は驚いた。少なくとも、穂乃影は陽華と明夜よりかは現時点で強いという事だ。
「すみません、影人。あなたにとっては言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、私はそもそも今日初めて光導姫『影法師』とあなたが兄妹という事を知りました。なので、あなたに伝える以前の問題だったんです」
ソレイユは真面目な表情で、そう影人に謝罪した。そして、なぜ穂乃影が影人の妹と分からなかったのか、その理由について話し始める。
「彼女、穂乃影が光導姫になったのは今から大体3年前です。偶然、闇奴が発生した場所に彼女はいました。私は保護の意味合いも兼ねて、穂乃影をこの場所へと転移させました」
「3年前・・・・・!? そんな前からあいつは光導姫だったのか・・・・・・!? いや、確かにその時期辺りからだったか。あいつが不定期のバイトを始めたって言ったのは・・・・・」
影人の表情が驚愕に染まる。スプリガン時の影人がこれほど驚いた表情をしているのは、おそらく初めてだろう。それ程までに、影人はその情報に衝撃を受けていた。
「穂乃影は光導姫の中ではけっこうなベテラン、と言えるかもしれませんね。話を戻します。私は穂乃影をここに転移させた後、彼女に光導姫になってはくれないかと、話を持ちかけました。陽華と明夜、それにあなたの時と同様に」
「・・・・・穂乃影に光導姫としての素質を感じたのか? 朝宮や月下の時みたいに」
「そう・・・・・・ですね。穂乃影に光導姫としての素質を感じた事は間違いありません。ですが、私が基本的に光導姫を増やす方法は、闇奴が発生した現場にいた少女に話を持ちかけるというものなので、そういう意味合いでも穂乃影に話を持ちかけたのだと思います」
影人の問いに、ソレイユは顎に手を当てながらそう答えた。影人はこんな時だというのに、似合ってねえなと思った。基本的に影人はソレイユの事をアホだと思っているので、アホが賢そうなポーズを取っているようにしか見えなかった。




