第614話 真実は残酷で(3)
「こんばんは、影人。何やら重大な話とお見受けしたので、テーブルとお茶を用意しておきました。どうぞ、イスに掛けてください」
「ああ、悪いな。サンキューだ」
神界のソレイユのプライベートスペースに黒色の門が現れる。その中から出てきた影人の姿を見たソレイユはニコリと笑みを浮かべ、影人にそう言ってきた。影人はソレイユの好意に素直に甘え、用意されていたイスに腰を下ろした。
「あなたは紅茶があまり好きではないので、緑茶を用意しました。ホットの方ですがよろしかったですか?」
「問題ない。早速、一口いただくぜ」
影人はテーブルの上に置かれていた湯飲みをそっと持つと、ズズッと熱い緑茶を啜った。最近は夏という事もあって冷たいものしか飲んでいなかったが、やはり熱いお茶もいいものだなと、影人は年寄りじみた事を思った。
「それで影人。私に話とはいったいどのようなものですか?」
ソレイユも影人の対面のイスに座ると、早速といった感じでそう言葉を切り出した。
「・・・・・一応先に前置きしとくと、俺はお前の事をある程度は信用してる。だから、手違いや勘違いが今回の原因だと思ってる。その上で話すぜ」
真剣な口調でそう語り出した影人を見て、ソレイユもその表情を引き締める。
そして、影人は語り始めた。今日自分が見た光景を。自分の妹が光導姫であったという事を。
「・・・・・・・・・教えてくれ、ソレイユ。俺の妹、帰城穂乃影が光導姫だった事、何で俺に教えてくれなかった? その理由を俺は知りたい」
髪をくしゃりと掻きながら、影人は静かな声でソレイユにそう問いかける。その声は静かではあったが、奥に秘めた激情を無理矢理に抑えるような、そんな声音であった。
「あなたの妹が光導姫・・・・・・・・・」
影人の話を聞いたソレイユは驚いたような表情を浮かべながらも、少し考え込むような素振りを見せた。そしておもむろに、影人にこう言ってきた。
「あなたの妹さんの姿が分かるような、例えば写真のようなものはありますか? その、神といえども記憶は完全完璧ではないので」
「穂乃影の写真か・・・・・悪いが持ってないな。というか、余程のブラコン以外、普通は妹の写真なんか持ってないもんだし」
「そうですか。それは少し困りましたね・・・・・・・」
ソレイユの言葉に、影人は否の答えを返す。影人の答えを聞いたソレイユは、難しそうな顔を浮かべた。
『くくっ、そんなもん俺の力を使えば余裕だぜ影人。てめえが見た妹の顔を写真として創造する事もわけはねえ。なんせ、俺は特別だからな』
「・・・・・マジか。お前から素直なアドバイスが来るのは、どっか胡散臭いが・・・・・・・・礼を言うぜ、イヴ。なら――」
突然そんな言葉を影人に送ってきたイヴに、影人は感謝をすると、神界についた時に再びポケットにしまっていたペンデュラムを取り出した。影人の言葉を聞いていたソレイユは、「イヴさんとお話ですか?」と首を少し傾げていた。
「まあな。――変身」
影人は自身の姿を変化させるキーワードを呟いた。すると、影人の握っていたペンデュラムについた黒色の宝石が、闇色の輝きを放った。そして影人の姿が変化する。目の前の少年は一瞬の内に、黒色の怪人、スプリガンへと姿を変えた。




