第607話 近くにいても知らぬ事(1)
「――で、件の歌姫様は結局君の同級生だったってわけかい?」
「そういう事だ。・・・・・・ってか、前にメールでそう言っただろ」
目の前でメロンソーダをストローで啜っていた暁理が、ストローから口を離し影人にそう確認を取ってくる。そんな暁理に、影人も啜っていた烏龍茶をから口を離しそう答えた。何故だか少し睨まれている気がするのは気のせいだろうか。
8月20日月曜日、午後1時過ぎ。風洛高校近くのファミレスで、暁理と影人はドリンクを飲みながら、話をしていた。窓の外は今日も灼熱の太陽が元気に世界を照らしているが、影人たちがいるファミレスの中はクーラーがガンガンに効いているので、関係のない事だ。
「つーか、お前なんで不機嫌なんだよ。俺、今日は別に何もしてねえだろ」
影人は何故か不機嫌な暁理に続けてそう言った。
先ほど暁理から話があると電話を受けて、このファミレスに来いと言われた影人は、しぶしぶこのファミレスに足を運んだのだが、この席に着くなり暁理は影人に、ソニアとは結局どういう関係であったのか話せと言った。一応、ソニアとどういう関係であったのかは、先週の火曜か水曜日辺りにメールで連絡したのだが、どうやら暁理はそれだけでは納得しなかったらしい。
それで影人は、暁理にソニアとの関係について再度伝えたのだが、その話を聞き終えた暁理は明らかにどこか不機嫌そうであった。
「べっつにー。ただ、よかったねって思っただけさ。あんなに超可愛くて、スタイルがよくて、歌も上手い超有名人が、君の同級生でよかったねって話さ! ・・・・・・・ふんッ!」
「ふんッって何だよ。明らかに嘘じゃねえか・・・・」
どうみても影人の数少ない友人は嘘をついているが、影人はそれ以上は言及しなかった。これ以上その事について突っ込みを入れれば、暁理はもっと意固地になるだろう。暁理ともまあまあの付き合いなので、影人にはそうなる事が予想できた。
「で、話ってのは何なんだよ。お前、俺になんか話があったんだろ? こんなクソ暑い中、わざわざ出て来てやったんだ。実は話なんてなくて、俺を呼び出すためだけにそう言ったなら、てめえにパフェ奢らせるぞ」
影人はドリンクバー特有の、少しだけ薄めの烏龍茶で再び喉を潤しながら、暁理にそう質問する。影人はどちらかというと、夏休みは家に篭りたい派の人間である。今年の夏休みは、何かと外に出されている気がするが、本当は今すぐにでも家に帰ってダラけたい。
「僕にたかるなよ。というか、僕がそんな事するわけないだろ? 僕がしたかった話っていうのは、結局夏休みにどこに行こうっていう話だよ」
「どこに行く? 何の話だよ?」
暁理の答えを聞いた影人は、その前髪に支配された顔を疑問の色に染めながらそう聞き返した。すると、なぜか暁理は「はぁ!?」と言って、怒りだした。




