第604話 歌姫グッバイ(2)
「ふっ・・・・・マネージャーさん、大切にしろよ。じゃあ、さようならだ金髪。お前の事、今度は忘れないぜ。歌、頑張れよ」
影人は金曜日には告げられなかった、別れの言葉を口にすると精一杯の笑みを浮かべた。未だに内心ではあの気持ちが燻り続けているが、それをソニアに悟らせるわけにはいかない。
「うん、ありがとう♪ 君からそう言ってもらえて、本当に嬉しい。・・・・・・・・・・でも影くん、ちょっと無理してない? 何かあったの?」
「ッ・・・・・!?」
だが影人の想い虚しく、ソニアには悟られたようだった。
「べ、別に無理してないぜ? 俺はそんなヤワな人間じゃねえよ」
影人は精一杯の笑みを変わらず顔に張り付けながら、ソニアの言葉を否定する。もちろん、この言葉は嘘で、ソニアの推察は当たっている。
「ふーん・・・・・・話したくないなら別にいいけど、無理はしちゃダメだよ? 君はたぶん、あんまり人に頼るような性格じゃないと思うけど、困ったり悩んでいたりするなら、全然人に頼っていいんだから。忘れないでね、影くん。どんな人にも、もちろん君にも心配してくれる人はいるんだからね? 私は君のこと心配する人間なんだから」
「ッ・・・・・・・落ちたもんだぜ、俺も。金髪如きに心配される事になるとはな」
影人の言葉を嘘と見破ったのだろう。ソニアは影人に向かってそんな事を言って来た。真っ直ぐなソニアの言葉を受けた影人は、張り付けていた笑顔をやめ、そう言葉を漏らした。
「・・・・・別に悩みとかそんなんじゃないんだ。ただ、もしもそうだったらって不安事が1つだけあってな。それを確認する気力が、どうしても持てねえ。それだけの事だ」
影人は前髪の下の両目を下に向けながら、ソニアに自分の本心を吐露した。悩み事の種が何なのかまでは言っていない。この言葉なら、ソニアが影人に対して何か疑問を持つことはないだろうと思い、影人はその言葉を口に出したのだった。
「へえ、影くんでもそんな気持ちになるんだね。なんか意外だなー」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ・・・・・・・・俺も普通の人間だ。時たまに、そんな気持ちになる事くらいだってあらぁ」
心底驚いたような表情を浮かべるソニアに、影人は呆れたような顔を浮かべた。
「ふふっ、そうだよね。影くんも人間だ。じゃ、昔馴染みからのありがーい言葉だよ」
ソニアは少しだけ意地悪そうに笑うと、こう言葉を続けた。
「勇気と元気はいつだって湧いてくるもの。無理に答えを確認する必要はないんだよ? その2つが湧いて来たら、その時に答えを確認すればいいんだよ。以上、私からの励ましの言葉でした♪ どう勇気と元気、湧いて来た?」
「んなすぐに湧くかよ・・・・・・だが、一応礼は言っとくぜ。サンキューな、金髪」
ソニアにそう聞かれた影人は、若干呆れてしまったが、普段通りの笑みを浮かべると感謝の言葉を述べた。柄にもなく励まされてしまったのが効いたのか、影人の気持ちは軽く、いやかなり軽くなった。




