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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
603/2051

第603話 歌姫グッバイ(1)

「・・・・・・そろそろ、行かなきゃな」

 自分の部屋でずっと考え事をしていた影人は、部屋の時計に視線を向けると、そう言葉を漏らした。

 8月19日日曜日、午後3時。今日は「世界の歌姫」と名高い少女、ソニア・テレフレアがアメリカに帰国する日である。昨日の夜のメールで、ソニアが日本を立つのは午後5時30分の飛行機という情報と空港の場所を送って来たので、その時間にその空港にいるためにはそろそろ家を出なくてはならない。

 金曜日にソニアに見送りに行くと約束した手前、影人は空港に行かなくてはならない。影人は外出するための荷物を手早く纏めた。

「・・・・・情けねえな。こんな気分であいつを見送らなきゃならないなんて。香乃宮に偉そうに言った奴がよ」

 外出の準備が整った影人は、家を出て真夏の太陽に目を細めながら、自分を嘲った。夏休み前、学食スペースで光司に言葉を垂れた奴が、その通りに出来ていないのだから。どの口で自分は光司にあんな事を言ったのだろうか。

 金曜日にソニアの楽屋で真夏たちと出会ってから今日に至るまで、影人の内心にはずっと焦りや不安が入り混じった気持ちが燻り続けていた。それは今も影人の心の内にある。

「・・・・・・・・・」

 影人はマンションの構内を歩く。前回はありえないと思いすぐさま頭の中から消し去った、馬鹿げた可能性は今回は頭の中から消えようとはしない。

 確かめようとすればすぐに確かめられる事。普段の影人ならばさっさと確かめるのが普通だ。しかし、今の影人にその普通はどうしても出来そうになかった。

「・・・・・・・なあ、穂乃影。お前は本当に・・・・」

 自分の妹の名前を呟きながら、影人はマンションの玄関から灼熱の世界へと足を踏み出した。














「や、影くん! 2日ぶりだね、今日はお見送りありがと♪」

「気にすんな。約束だったからな」

 午後5時10分。ソニアのメールに書かれていた空港に辿り着いた影人は、目の前の眼鏡と帽子で変装したソニアにそう言葉を返した。

「そういや、あのマネージャーさんはどこにいるんだ? 近くに姿は見えないが・・・・」

 空港のロビーを軽く見渡すが、レイニアの姿は見えない。影人が疑問に思いソニアにそう聞くと、ソニアは少し照れたようにこう言ってきた。

「ああ、レイニーならもう先に飛行機に乗ってるの。『せっかくなら、私がいない方が色々と気兼ねないでしょ』って、気を遣ってくれたみたいなんだ」

「そうか・・・・・いいマネージャーさんだな」

「うん。レイニーが私のマネージャーなのが、この業界に入って1番のラッキーだと私は思ってるよ!」

 影人のその感想に、ソニアは煌めくような笑顔を浮かべた。その笑顔を見て、影人はソニアとレイニアがお互いを思い合っているという事が分かった。

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