第601話 歌姫オンステージ17(4)
(1週間・・・・・・2日前の水曜日、あいつが学校に行かなくなったのは昨日からだ。なら辻褄は合うか・・・・・・・・でも、やっぱりまだ疑問はある。あいつは何で生徒会の仕事なんか手伝った? あいつの性格的に手伝うか? それに、確か最近まであいつや目の前の『巫女』や『提督』のいる学校では、研修が行われてたはずだ。いや、それがどうとかはまだ分からないが・・・・・・・・・)
風音から取った確認と、ここ最近の穂乃影の行動を照らし合わせ影人は内心そう呟く。期間の矛盾はないが、影人の心の内からはまだ疑問と不安が消えない。影人の心の奥底には、何度かありえないと考えていた1つの可能性が、頭をもたげている。
すなわち風音の言葉は嘘で、穂乃影が実は光導姫であるという可能性だ。
(いや、その可能性はないって否定したはずだ・・・・・・・・! あいつが光導姫だったら、ソレイユが俺に伝えてるはずだッ! だから、あいつが光導姫なわけ・・・・・・・・・)
だが、影人はその可能性に納得しなかった。いや、再度否定したと言ってもいい。そもそも、風音が嘘をついているというのはただの憶測に過ぎない。いや、もはや言い掛かりに近い。
唐突に湧き上がってきた焦りや不安といった気持ち。そんな気持ちがきっと表情に少し出てしまっていたのだろう。ソニアが心配するような顔で影人を見つめてきた。
「大丈夫、影くん? なんか顔色悪いよ・・・・・?」
「ッ・・・・・! あ、ああ問題ない。ちょっと考え事をしてただけだからな」
影人はソニアに取り繕うようにそう言うと、風音やアイティレ、真夏たちに向かって作り物の笑みを浮かべながらこう言葉を続けた。
「すみません、妹と皆さんが知り合いだったという事が本当に意外だったので、少し取り乱してしまったかもしれません。妹はあまり自分の事を話さない性格なので」
「確かにきょう偶然会った私たちが、妹さんの事を知っていたら驚きますよね・・・・・いえ、お気になさらないで下さい。むしろ、当然の反応です」
影人の言葉を聞いた風音が、理解を示すように頷いた。アイティレや真夏、ソニアも影人の言葉を疑っている様子はない。
それからしばらくは、他愛のない話が展開された。影人は基本的には自分から何かを語る事はなく、ただ光導十姫たちの話に耳を傾けているだけだった。
「っと、もうこんな時間か。ごめんね、みんな。今日はこの後に、レイニーとスタッフのみんなとお祝いとお疲れを兼ねたパーティをやるんだ。だから、そろそろ私もホテルに戻らないといけない」
スマホの時計を確認したソニアが、申し訳なさそうに両手を合わせてそう言った。
「ああー、なら仕方ないわね。じゃ、私たちも帰るわ。あんがとソニア、今日は楽しかったわ。またいつか会いましょ」
ソニアからそう言われた真夏は、イスから立ち上がるとヒラヒラと手を振る。そんな真夏に続くように、アイティレと風音も立ち上がる。
「ソニア、改めて私たちをライブに招いてくれた事に感謝する。私も楽しかった。またな」
「本当に凄く楽しかったわ。ソニアは日曜日にはアメリカに帰るのよね? もしまた日本に来る事があったら、私の実家の神社に寄っていって。お茶とお菓子を出すから」
「ふふっ、ありがとう真夏、アイティレ、風音。喜んでもらえたならよかった♪ うん、また会おう」
3人からそう言葉を受けたソニアは、嬉しそうな笑顔を浮かべると、3人に向かって手を振った。そして、そのタイミングで影人も席を立つ。
「・・・・・・俺も失礼する。今日はありがとうな。気が向いたら、日曜に見送りに行く」
「え、本当!? 約束だよ影くん!」
穂乃影に関する疑惑の事で、早くこの場から去りたかった影人はソニアにそう言った。ソニアに対する別れの言葉を今は思いつかなかったため、影人はそう言ったのだが、ソニアは思った以上に喜んでいた。
「・・・・・分かったよ。じゃあな」
影人はソニアとそう約束すると、レイニアに頭を下げて楽屋を後にした。




