第600話 歌姫オンステージ17(3)
「帰城さん、いやそれだと混じっちゃうから・・・・・ええと、私も帰城くんで失礼しますね。帰城くんは、帰城穂乃影さんのお兄さん・・・・でいいんですよね?」
「ッ・・・・・・・・!?」
風音の口から出たその言葉に、影人は前髪の下の両目を思わず限界近くまで見開き、驚いた表情を浮かべた。なぜ、『巫女』の口から穂乃影の名前が出てくる。
「あ、そうそう! 穂乃影ちゃんと会ったけど、可愛らしい妹さんよね! 兄妹だけあって、帰城くんと雰囲気がすごい似てるし」
風音の言葉に乗っかるように、真夏も穂乃影の名前を口にした。しかも、真夏の口ぶりからするに、真夏も穂乃影と会った事があるようだった。
「ああ、君は彼女の兄か・・・・・・君の妹には世話になった。何かと細かいところを助けてもらったよ」
風音と真夏の言葉から、影人が穂乃影の兄であるという事に気がついたアイティレも、影人にそう言葉を掛けてきた。穂乃影は実戦研修の間、アイティレたちの補助に回ってくれた。しかし、一般人で穂乃影の兄である影人にバカ正直にその事を言う訳にはいかない。ゆえに、アイティレは言葉をぼかしながら、影人にそう言葉を掛けたのだった。
「へえー、影くん妹さんがいたんだ。ずっと1人っ子だと思ってたよ。いいなー、私も会ってみたい」
話を聞いていたソニアが、少し驚いたような表情でそう言った。ソニアは影人に妹がいるという話は初耳だった。
「え、あ・・・・あの、会長や他の皆さんも、妹と会った事があるんですか・・・・・・? い、いったいどこで・・・・?」
しかし、影人からしてみればソニアの反応など今はどうでもいい。穂乃影がアイティレと風音と同じ学校に通っている事は影人も知っている。だが、穂乃影がアイティレや風音と知り合いだというのは初耳だ。それに真夏と知り合いという事も。
(どういう事だ? 何で『提督』と『巫女』と会長があいつの事を? そう言えば、あいつ朝宮とも面識があるって言ってたが・・・・・)
焦りと不安が入り混じったような気持ちで、影人は思考する。いや、思考というレベルではない。ただ「なぜ」という疑問が湧き上がってきているだけだ。
「帰城さんにはその・・・・・少し生徒会の仕事を手伝ってもらいまして。私は、榊原さんと一緒で生徒会長をしているんです。私の横の彼女、アイティレと他校ではありますが、個人的な付き合いがあった榊原さんもその時に手伝ってもらったんです。だから、私たちが帰城さんと知り合ったのはその時になります」
影人からの質問を受けた風音は、少し思案するような顔を浮かべながらもそう答えた。嘘の答えではあるが、本当の事を言うわけにはいかない。そのため、風音は辻褄を合わせるためにもっともらしい理由をでっち上げたのだった。
「あいつが生徒会の仕事を・・・・・・・? それは最近の事ですか?」
影人は難しそうな顔を浮かべながら、風音に続けてそう質問した。最近、といっても1週間ほど前から、穂乃影は制服を着て自分の学校に通っていた。夏休みだというのに、穂乃影は色々と忙しいと言っていたが、それは生徒会の仕事を手伝うためだったのだろうか。
「はい。ちょうど1週間、2日前の水曜日まで手伝っていただきました。けど、それが何か・・・・・?」
「あ、いえ・・・・・・・気にしないでください。少し気になっただけなので」
影人の質問に風音は不思議そうな顔をして答えてくれた。そんな風音に、影人は作り物の苦笑いを浮かべる。




