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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第60話 蹴撃のスプリガン(1)

「何だ? あれ・・・・・・」

 それに最初に気づいたのはアカツキだった。

 浄化された中年男性が気を失って前のめりに倒れた。そこで奇妙な事が起こる。

 突如、倒れた男性の背中から黒いもやの集合体のようなものが浮き上がったのだ。その出現の仕方はまるで、今まで男性の中にその靄のようなものが仕込まれていたかのようだった。

「あ・・・・・・?」

 かかしもその黒い靄のようなものに気がついたのか、疑問の声を上げる。陽華と明夜もかかしの上げた声に続いてそれに気がついたようだ。

「何あれ?」

「イカスミの集合体?」

 明夜が少しずれたような感想を漏らす。陽華が「そんなわけないでしょ」とツッコミを入れている間に、状況は変化した。

黒い靄のような集合体は一瞬の内に、それを中心として半ドーム状に広がった。

「な・・・・・・!?」

 それは一瞬の出来事だった。ゆえに4人は何か行動を起こす前に、そのドームの内側に閉じ込められた。

「くっそ! 一体何だってんだよ!?」

 この異常な事態にかかしの雰囲気は先ほどの戦闘と同じように、緊張感のあるものへと変わった。そして守護者らしく、何が起こっても対応できるよう光導姫たちの前に移動する。

「さあね・・・・・! ただ不測の事態なことは間違いないよ!」

「明夜!」

「陽華!」

 光導姫の3人も密集して1カ所に固まり、周囲に最大限の気を配る。

 観察してみると、この半ドームのようなものは目測なので正確な大きさは分からないが、半径150メートルほどだろうか。かなりの大きさだ。

「・・・・これ、何なんですかね?」

「分からない。けど、見た感じこれは結界みたいなものかな。僕らを閉じ込めるための」

 陽華の疑問にアカツキが自分の見解を答える。なにぶん、アカツキも初めての事態なので、この半ドーム形状のようなものが何なのか正確には分からない。

 大通りの車道のど真ん中で警戒しながら周囲を観察する。ドームを通して外の景色は少しぼやけているが、見える。ただ、それ以外の情報は全くとしてわからない。

「3人とも。少し試したいことがあるから、離れてくれるかな?」

 アカツキが陽華、明夜、かかしにそう伝えると3人はわかったという風に頷いた。

「ありがと、じゃあ始めるね」

 3人が自分の回りから離れたのを確認すると、アカツキは上を見上げた。

 黒い膜のようなもので覆われた半ドーム状の結界の頂点部、地上から離れたそこを狙って、アカツキは集中した。

「風の旅人りょにん――剣技、風撃ふうげきの三」

 アカツキの周辺に風が渦巻く。剣を腰だめに構え、1点を見据える。

 浄化の力を宿した風が剣に集中し始める。この技は自分に浄化の風を纏う風の旅人形態でしか使えない。

「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 裂帛の気合いと共にアカツキがその剣を逆袈裟に振るう。

 するとその軌道を描いた剣先から風の斬撃が放たれた。

 その斬撃はそのまま頂点部を目指して()()()()()、遂にはそこに激突した。

 シュバァァァァァァァァァァァァァァァァン

 派手な音を奏でながら頂点部に激突した斬撃。アカツキの渾身の攻撃によって結界は破られたか、4人がそのことを確認しようとしばらく頂点部を眺める。

 しかし、斬撃と激突する前と何ら変わらず、頂点部は閉じたままだった。

「・・・・・・はあー、ダメだね。やっぱ内側からは破れないように出来てる」

「あんたのアレでびくともしてねえからな。面倒なもんだぜ」

 アカツキがため息をつきながら剣を持った右手を下げる。スケアクロウもお手上げといった感じで首を横に振る。

「・・・・・・うわー、すごい。人間って斬撃飛ばせるんだね」

「普通の人間には無理よ。とは言っても、飛ぶ斬撃ってやっぱりロマンあるわよね」

 一方、陽華と明夜はアカツキの放った斬撃についての感想を漏らしていた。少しずれた感想なのはご愛嬌あいきょうというやつだ。

「しかし分からないな。僕たちをここに閉じ込めて、一体何がしたいんだ?」

「俺らはレイゼロールと敵対してる勢力だ。理由ならいくらでもありそうなもんだが、確かに明確な目的はわからねえな」

 2人がこの状況を分析しようと意見を交換しているその時、倒れている男性の横にポッカリとした昏い穴が出現した。

「「「「!?」」」」

 新たな現象に4人は各々の武器を構える。

「今度は何だ?」

「全く厄日だよ、今日は・・・・・!」

 コツ・・・・・・コツとその昏い穴から何かが歩いてくるような音が聞こえてくる。

「も、もしかして・・・・・幽霊?」

「違うわ。よ、レッドシャイン。だって幽霊に足はないもの」

「・・・・・・ははっ、あんたら大した奴らだよ」

 新人の光導姫の言葉に思わず呆れたような言葉を送るかかし。軽薄と言われる彼もこの状況で流石に軽口は叩けない。

 コツコツ、コツコツとだんだん音が近づいてきた。

「・・・・・・鬼が出るか蛇が出るか」

 アカツキがほんの少しだけ、口元をつり上げる。

 そしていよいよその音の正体が昏い穴の向こうから、現れた。

「・・・・・・・・」

 白い髪に西洋風の黒い喪服。穴から現れたその女に4人は目を見開く。

「おいおい・・・・! 嘘だろ・・・・!」

「ははっ、鬼か蛇の方がはるかにマシだね・・・・!」

 アカツキとかかしは最悪の敵の登場に汗を滲ませた。

 陽華と明夜は初めてスプリガンが現れた時以来に相まみえた宿敵の名を呼んだ。

「「レイゼロール・・・・・・!」」

 顕現したのは考え得る限り最悪の人物だった。


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