第597話 歌姫オンステージ16(4)
ソニアと影人がいるのは、ソニアの楽屋だ。ソニアのライブが終了したタイミングで、影人はレイニアに案内されてこの楽屋に来たのだった。
「本当!? えへへ、嬉しいな♪ やっと君にそう言わせられたよ♪」
影人の言葉を聞いたソニアは、満面の笑みを浮かべた。弾けるような、心の底からの笑みだ。
「レイニーもありがとね♪ 影くんを案内してくれて」
「気にしないで。それより、最高のライブだったわよソニア。さすがは私が見込んだ世界の歌姫ね」
「あはは、ちょっぴり照れるけど、そう言ってくれて嬉しいな♪ この最高のライブが出来たのは、レイニーやスタッフのみんなのおかげだよ」
ソニアとレイニアは英語でそんな言葉を交わした。影人には2人が何を言っているかは変わらずに分からなかったが、表情からいい話をしているという事は分かった。
「そういや、お疲れさんだ金髪。今日で日本でのライブは最終日だったよな? お前いつアメリカの方に戻るんだ?」
影人はソニアにそう労いの言葉を掛けた。ライブの感想は言ったが、そちらの言葉を掛けていない事に気がついたからだ。後は、ソニアがいつ帰国するのか単純な疑問も聞いてみた。
「ありがと♪ 帰国するのは明後日の日曜かな。明日は1日こっちでゆっくりするつもりだから。レイニーと一緒に東京観光するんだー♪ あ、影くんも一緒に来る? きっと楽しいよ!」
「そうか。・・・・同行に関しては遠慮しとく。2人でゆっくり観光するといいさ」
ソニアから誘いを受けた影人は、その誘いを断った。せっかく観光をするのならば、邪魔者はいない方がいい。同行すれば、ソニアとレイニアに気を遣わせるかもしれない。気を遣わせて観光なんてさせたくはない。
(それに、出来るだけ金髪と関わる事は避けた方がいいしな・・・・・・・・今日は仕方ないとはいえ、これ以上深く関わるべきじゃない)
影人はスプリガン。そしてソニアは光導姫だ。影人は基本的に光導姫や守護者とは、出来るだけ関わらないようにしている。自分と同じ学校で同学年の、陽華、明夜、光司などとは特にだ。この3人に関しては、恒常的に関わる可能性があるからである。恒常的に関わってしまえば、どれだけ気をつけていても、何かスプリガンに関する情報をポロっと漏らしてしまう可能性があるからだ。
ファレルナ、真夏、そしていま目の前にいるソニアなど仕方なく関わってしまった場合は、細心の注意を払いながら、普通に接する。このような者たちに関しては、恒常的に関わる可能性が極めて低いからだ。まあ、真夏に関しては影人と同じ学校で陽華や明夜、光司たちと同様に恒常的に関わる可能性もあるにはあるが、真夏は3年生。学年が違う。光司のように生徒会などに入っていない限り、1学年上の真夏と影人が関わる可能性はそれほどない。あったとしても、顔を合わせれば挨拶をするくらいだろう。
「そっかー、ちょっぴり残念だな」
まさか影人がそんな事を考えているとも知らずに、ソニアは苦笑してそう言った。ソニアは言葉通り少し残念そうだったが、影人はあえて無視をした。
それから少しすると、コンコンと楽屋のドアをノックする音が響いた。ソニアが「はーい!」と返事をすると、楽屋のドアを開けて男性のスタッフが顔を覗かせた。
「あ、すみませんテレフレア様。テレフレア様に会いたいと、3人の女性が来ているのですが・・・・・・その、拒否したのですが、テレフレア様に言ってもらえれば分かると・・・・・・」
「あ、あの3人ちゃんと来てくれたんだ。すみません、通してあげてくれませんか? 日本人2人とロシア人の女の子ですよね? ちゃんと知り合いなので」
30代くらいの男性スタッフから用件を聞いたソニアは、男性スタッフにそう答えを返した。ソニアの確認に頷いたスタッフは「わかりました、失礼いたします」と言って、ドアを閉めた。
「ああ、その子以外にもライブに招いていた友達の事ね。確か私があなたに渡したチケットも3枚分だったし」
「そうそう♪ レイニアが用意してくれた一般席のチケットをあげた子たちだよ」
レイニアとソニアが何かを話しているが、影人は先ほどソニアが言った、「日本人2人とロシア人の女の子」という言葉に、嫌な予感を覚えていた。
(・・・・・・・・日本人2人とロシア人、なんでか釜臥山の時の事を思い出すのは、気のせいだよな・・・・・?)
影人が釜臥山の事を思い出すのは、そこが1番直近で影人の脳内に浮かぶ少女たちと出会った記憶だからだ。出来る事ならば、この嫌な予感は外れてほしい。
しかし、結果として影人のその予感は当たっていた。
「すみません、お客様をお連れしました」
先ほどの男性スタッフがノックをして再びドアを開ける。すると、そこから現れたのは――
「アロハー! この私がわざわざ来てやったわよ!」
「『歌姫』、いい歌だったぞ」
「今日はありがとう、ソニア。本当にいいライブだったわ」
真夏、アイティレ、風音の3人であった。




