第596話 歌姫オンステージ16(3)
「1曲目ありがとうみんな♪ じゃ次は2曲目、行くよー! ここからは気分上げてこう!」
ソニアが2曲目を歌い始める。先ほどとは打って変わって激しめの曲だ。声も先ほどとは違い、元気いっぱいの明るい声だ。これぞソニア・テレフレアといった感じである。
それからも、ソニアは色々な自分の曲を歌い続けた。影人はそのいずれの曲もしっかりと耳を傾けて、ソニアの歌を堪能した。
「よーし、じゃ7曲目! 次は私のデビュー曲、行っくよー!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」」」」」
ソニアがそう告げると、会場の観客たちが最高潮に沸いた。今までもボルテージは最高潮ではあったが、今回はそれを上回る形だ。
「〜〜♪ 〜〜♪」
そして、ソニアはその観客の声に応えるように、自身のデビュー曲を歌い始めた。それはソニア・テレフレアの名を一躍有名にした曲。世界の歌姫の原初の曲だ。どこまでも明るく元気な曲で、聞いているこちらも思わず気分が上を向いてくる、そんな曲である。
「・・・・・・ソニアはあなたと会って話した後、すごく嬉しそうだったわ。そして今までにない集中力で、リハーサルをしてライブを絶対に成功させるって息巻いてた。今日の最終日のこのライブも、前日2日間のライブも、間違いなくソニアの過去最高のライブに入るわ」
影人がソニアの歌に聞き入っていると、レイニアが正面を向いたままそう言った。そしてスマホの画面だけを影人に見せる。そこには今レイニアが言った言葉が日本語の文字として書かれている。
「・・・・・そうですか」
スマホの画面を見た影人はただ一言そうスマホに呟くと、その画面をレイニアに見せた。英語が書かれたその画面をチラリと見て確認したレイニアは、言葉を続ける。
「それは多分あなたに最高のライブを見せたかったからよ。もちろん、観客やファンの為でもあるわ。でも、今回のライブに関しては、あなたという要因が1番強いと私は思う。昔馴染みのあなたに、あの子は今の自分の輝いてる姿を見てほしいのよ。それが、最高のパフォーマンスになった」
「・・・・・それはないですよ。あいつが最高のライブをしてるのは、あいつがその努力をしたからです。俺なんて要因にすらなりませんよ」
続けられたレイニアの言葉に、影人は首を横に振ってそう答えた。たかだか自分如きが、世界の歌姫のパフォーマンスに影響を与えるなんていう事はないはずだ。
「・・・・捻くれてるのね、あなた。まあ、あなたがそう思ってるのなら、それでいいわ。最後まで、あの子のライブをしっかり見てやってね」
「それはもちろん」
ため息を吐くレイニア。そんなレイニアのスマホの画面を見ながら、影人は今度は首を縦に振った。
それからソニアのライブが終わるまで、影人はしっかりとソニアの歌と姿を目と耳に焼き付けた。
「ふー、最高の気分♪ どうだった影くん、私のライブは?」
「ああ、よかったぜ。もう2度と、歌が下手なんて言えねえくらいにな」
ライブを終えたソニアが、晴れやかな顔でそんな事を聞いて来た。そんなソニアの問いかけに、影人は笑みを浮かべてそう返答した。




