第593話 歌姫オンステージ15(5)
「なんや双調院のお嬢様かいな。ウチらに何の用や? ああん?」
典子の姿を見た火凛が軽く睨みつけるように、そう質問した。言葉と表情も相まって、かなりガラが悪い。どこぞのチンピラのようだ。
「いえ、正確には朝宮さんと月下さんだけに用があるのですが・・・・まあ、いいでしょう」
典子はガラが悪い火凛に眉をひそめながらそう言うと、不思議そうな顔をしている陽華と明夜にこう言ってきた。
「昨日の研修で、あなた達の思いは見させてもらいました。あなた達のスプリガンに対する考え方はどうであれ、あなた達の思いは本物。その思いは、光導姫として、人として尊敬するに値するものでした」
典子は真っ直ぐに陽華と明夜を見つめながら、こう言葉を続けた。
「私は正直に言って、あなた達を見くびっていました。甘い考えの光導姫たちだと。そして、朝宮さんにちょっかいを掛けたのは、そのような認識から来る私の程度の低さが原因でした。まだまだ、私も精神が幼かったようです。これからはもっと精神面の修行も取り入れて――」
「ああもう、ごちゃごちゃと! 結局、自分は陽華と明夜に何が言いたいねんな? もっとシンプルに言いや! あんたの話は何を伝えたいんかようわからんねん!」
典子の話に我慢が限界といった感じで、火凛が典子の話の最中にそう言葉を割り込ませる。火凛の言葉を聞いた典子は、一瞬どこか唖然としたような表情になったが、「確かに・・・・・その通りですね」と軽く笑みを浮かべた。
「すみません。どうもこういう所は私の悪癖でして・・・・・・・・・私が言いたかったのは、あなた達に対して謝罪したいという事です。ごめんなさい、朝宮さん、月下さん。考え方が違うとはいえ、私はあなた達を軽んじていました。その事を謝罪します」
典子は真剣な顔で陽華と明夜にそう言うと、頭を下げた。典子から謝罪の言葉を受けた2人は、慌てたように典子にこう言葉を返した。
「いやいや、頭を上げてよ双調院さん! 確かに、私は多少はあなたに苛ついた事もあったけど、そんなに深く謝られる程の事じゃないし!」
「そうよ、別にそれ程気にしてなかったし。というか、双調院さんの考え方は別に普通だと思うわ。私たちの考え方は、正直甘いって言われても仕方ないものではあるしね」
陽華と明夜のその言葉に典子は顔を上げると、真剣な顔で軽く頭を振りながらこう言った。
「いいえ、謝罪するべき事なのです。そうしなければ、ケジメにはなりませんから」
典子はそう言って、右手を陽華と明夜に出してきた。そして、口元を少しだけ緩める。
「朝宮さん、月下さん。私とご友人になってはいただけないでしょうか? 考え方は違えども、同じ光導姫という仲間として、またあなた達に1人の人間として尊敬の念を抱き、私はあなた達と仲良くなりたい・・・・・・そう思っています」
「「ッ!」」
典子のその言葉を聞いた2人は、一瞬驚いたような表情になるが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべると、典子の差し出された手を掴んだ。
「もちろんだよ! 私たちも双調院さんと友達になりたい! よろしくね、双調院さん!」
「新しい友達ゲットね。私も嬉しいわ。よろしく、双調院さん」
「お2人とも・・・・・ありがとうございます」
陽華と明夜にそう言われて手を掴まれた典子は、2人と同じように嬉しそうに笑うと、そう言葉を述べた。
「・・・・まさかの展開やな。こうなるとは、予想もしてへんかったわ」
「う、うん・・・・・・・・でも、陽華と明夜だから・・・・ふ、2人には不思議な魅力がある・・・って私は思う」
その様子を見ていた火凛と暗葉は、どこか暖かな顔を浮かべながら笑みを浮かべていた。陽華と明夜の不思議な魅力。暗葉の言ったその言葉は、火凛も分かるような気がした。
「まあ、陽華と明夜の友達やったら、ウチらとも友達や。なあ、双調院はん。時間あるか? ウチらこれからショッピングモール行って、夜飯食うんやけど、せっかくやから一緒に行かんか?」
「え? 確かに時間はありますが・・・・・」
「なら行こうよ双調院さん! きっと最高に楽しいよ!」
「友達が多い方が絶対楽しいし盛り上がるもの。行きましょう、双調院さん。今日はパーリィナイトよ」
「パ、パーリィナイト・・・・・た、楽しみ」
火凛の突然の誘いに、戸惑った典子。しかし、火凛の誘いに賛成するように、陽華、明夜、暗葉もそれぞれ楽しそうな顔を浮かべた。
「なら行くで! 友達らしく親睦を深め合おうや!」
火凛は、陽華と明夜の手に握られている典子の手に自分の右手も重ねた。
「「そうそう!」」
陽華と明夜も典子の手を掴んだままそう言って、
「い、行こう・・・・・双調院さん」
暗葉も右手を典子の右手に重ねた。
そして4人は典子の手を引いた。
「ちょ、ちょっと皆さん・・・・・・・!?」
典子は4人に手を引かれるまま、4人と一緒に行動を共にした。だが、その顔はどこか嬉しそうでもあった。
こうして5人の少女たちは、夕日が照らす中、共に歩いていくのだった。
――新たなる力、新たなる仲間。陽華と明夜がこの研修で得たものは、本当に大きなものだった。




