第590話 歌姫オンステージ15(2)
「そうかそうか、陽華の能力は火やったか! ええやん、自分にピッタリやで!」
「う、うん。それは分かったし、嬉しいんだけど・・・・・・・・」
陽華は苦笑いを浮かべながら、チラリと視線をアイティレに向ける。陽華の能力が発現したといっても、今は実戦研修中だ。こんなに火凛が浮かれていては、真面目なアイティレがいったい何を言うかわかったものではないと、陽華は思ったからだ。
「ふっ、気にするな。私もそこまで野暮ではないさ。それに、見てみろ陽華。君が壁を超えた事によって、他の光導姫たちも君に注目している。どうやら、いい刺激になったようだ」
しかし、アイティレは陽華の考えている事など見通すようにそう言った。そして、アイティレの言うように後ろの方を見てみると、順番を待っている光導姫たちが、驚いたような顔を浮かべていた。「すごい・・・・・」「ッ、私も負けてられない・・・・!」「私だって!」といったような声が聞こえてくる。そして、それは明夜の方も同様だった。今ほとんど全ての光導姫の視線は、陽華と明夜に集中していた。
「・・・・・・・中々やりますね」
そんな2人に視線を向けながら、そう言葉を漏らす少女が1人。遠距離タイプの研修場所の後方にいたその少女は、紫と黄色を基調としたコスチュームを纏っていた。上品な雰囲気のツインテールの少女。彼女の名は双調院典子。1番初めに自身の能力の強化に成功した少女であり、陽華と明夜と同様に1つの壁を超えた少女である。
「やっぱり・・・・・口だけの方々ではないみたいですね」
典子はフッと笑みを浮かべてそんな言葉を呟いた。
「さて、ではそろそろ研修に戻るぞ。皆もレッドシャインのように思いを燃やして私に挑んでこい。そして、次の相手は君だな。1番近い所にいるという事はそういう事だろう?」
アイティレが陽華を光導姫名で呼びながら、そんな言葉を自分の担当の光導姫たちに掛ける。そしてそのついでに、陽華に組みついている火凛の肩にポンと手を乗せた。その顔は、どこか意地が悪そうだった。
「え・・・・? い、いやウチの出番はもうちょい後やし、遠慮させてもらいますわ!」
「なに、遠慮はいらない。友が壁を超えたんだ。次は自分の番だと思い、出て来たのだろう? その思いは素晴らしいものだ」
「ちょ、違っ・・・・・! ウ、ウチはまだ・・・・・・・・い、嫌やーーーーーー!」
陽華から引き剥がされた火凛は、アイティレに肩を掴まれながら引きずられていった。
「あ、あはは・・・・・アイティレさん、真面目だけどたまにちょっと意地悪な所あるからなー・・・・」
アイティレに引きずられていく火凛を見ながら、陽華は苦笑いを浮かべる。火凛は「助けてえな陽華! ウチら友達やろー!?」と叫び、陽華に助けを求めて来たが、陽華はその叫びを無視した。まあ、世の中には仕方ない事があるのだ。
「・・・・やっと少しは強くなれた。でも、まだまだだ。あの人に追いつくには、困っている人たちを助けられるためには・・・・・・・・」
陽華は自身の右手に視線を落とし、そう呟いた。自身の右手に揺らめく炎。陽華が1つの壁を超えた証。しかし、まだこの程度では全然足りない。
「うん、だけど・・・・・・・今は素直に嬉しいや! 私はきっと、まだまだ強くなれる!」
陽華は心の底から嬉しそうに笑みを浮かべると、燃える拳を天高く突き上げるのであった。




