第59話 共闘(4)
「ああー、本当に面倒くさい! あの雑魚闇奴、段階進化なんかしやがってよ!」
「うるさいよかかし! 闇人に段階進化しなかっただけましだと思え!」
一方、段階進化した闇奴との戦闘は熾烈を極めていた。
闇奴は両翼になったことで低い高度なら飛べるようになったし、あのサソリの尾のような突起物も厄介極まりない。さらには目も1つ増えたことも闇奴を厄介にしている要素の1つだ。
「つっても、あいつ闇人並に厄介だぞ? どうすんだアカツキ」
「僕と君があの闇奴の注意を引きつけて、2人に浄化してもらう。実力的に考えればそれが1番ベストだ」
「了解だ」
前線で闇奴の攻撃をいなしながらアカツキとかかしは闇奴をどのように浄化するかを話し合う。
普段、闇人を相手にすることもある2人にはまだ余裕が感じられた。
「くっ・・・・!?」
しかし、同じく前線で戦っている陽華にとっては。余裕など全く無かった。明夜の援護もありなんとか闇奴の攻撃に耐えてはいるが、攻撃する暇もない。
「氷弾よッ!」
明夜が浄化の力を宿した氷弾を放つ。その攻撃を闇奴は第3の目で確認し、尻尾で迎撃した。
「よし、チャ――」
「レッドシャイン! 君は下がれ!」
陽華がようやく攻撃に転じようとした瞬間、アカツキが陽華にそう指示した。
「え、何でですか!?」
「君はブルーシャインと一緒に闇奴を浄化してほしい! 隙を作るのは僕たちがどうにかする!」
アカツキが風の力を使った素早い動きで闇奴に斬りつける。そのアカツキを狙うかのように尻尾がアカツキを突き刺そうとするが、その攻撃はスケアクロウが槍でいなす。
「つーわけで、お願いできるかいレッドシャインちゃん? 君のことを気にしながらだと俺らも動きにくい」
「っ・・・・・・・はい!」
かかしの言葉は暗にお前は邪魔だと言っているようなものだ。それはとてつもなく悔しい事だが、それは事実だろう。陽華がいては2人は満足に動けない。
その事実を受け止めながらも、いま自分がすべきことはアカツキの言った通り、明夜と一緒に闇奴を浄化する隙を窺うことだ。
陽華はくるりと振り返ると、明夜の元へ駆けだした。
「ちょっと、キツい言い方過ぎたんじゃないかい?」
「事実だろ。それは彼女も分かってるさ、だから彼女はすぐに下がってくれたんだろ」
「君、僕の友人と一緒でデリカシーってやつが足りないよ!」
一見、軽口を交わしているように見える2人だが、その実、闇奴の隙を窺っている。しかし、段階進化した闇奴は中々隙というものを見せてくれない。
その間にも陽華はアカツキの言葉を明夜に伝え、いつでも闇奴を浄化する準備を整える。後はアカツキとスケアクロウの働きにかかっているというわけだ。
「かかし、僕があいつの注意を引くから君はなんとかあの額の目を潰してくれ。とにかくあれが面倒だ」
「簡単に言ってくれるねえ、まああんたの実力は知ってるし引き受けてやるよ」
「ありがと、なら少し本気で行こうか――風の旅人」
アカツキがそう呟くと、アカツキの周囲に風が吹き乱れる。そして先ほどよりも速い速度でアカツキは闇奴に襲撃をかける。
「――! ――!」
闇奴はアカツキに尻尾や爪による攻撃を行うがそれらの攻撃は全てアカツキには当たらない。アカツキのスピードが先ほどとは全く異なるほど速くなっているからだ。
「――!?」
闇奴は両の目でだけでなく第3の目でもアカツキの姿を追おうとするが、アカツキが速すぎて目で追いきれない。そこに一瞬の隙が生じた。
「――ほらよ、喰らいな」
その隙にかかしは闇奴の膝の部分を踏み台に跳躍する。
そしてかかしは槍を闇奴の額の瞳に突き刺した。
「――!? ――!?」
闇奴は潰れた額の瞳を両手で押さえてうめき声のようなものを上げた。
「――!」
反射的に闇奴は翼をはためかせ上空に逃げようとする。しかし、それをアカツキは見逃さなかった。
「させないよ!」
アカツキは剣で闇奴の片方の翼の根元を切り裂いた。派手に黒い液体をまき散らしながら、翼は地に落ちた。再び片翼になった闇奴は飛び立つことが出来ない。
「今だ2人とも!」
今度こそ決定的な隙を見せた闇奴にアカツキは陽華と明夜にそう叫ぶ。
陽華と明夜は頷くと、その言葉を世界に響かせる。
「「汝の闇を我らが光に導く」」
陽華が右手を前方に突き出す。
「逆巻く炎を光に変えて――」
「神秘の水を光に変えて――」
明夜も陽華に続くように左手を前方に突き出す。
陽華のガントレットと明夜の杖が光となり、2人の手に宿る。
2人は闇奴に向かって必殺の一撃を放った。
「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
光の奔流が闇奴に向かって放たれる。アカツキとかかしによって弱体化した闇奴はその奔流に飲み込まれた。
「おお、あの2人一緒に闇奴を浄化するのか。こりゃまた珍しいやり方だ、2人の分浄化力も2倍ってわけだ。それはそうと、アカツキさんよ、最初っからあれ使っとけよ。おかげさまで、余計な時間が掛かっちまったじゃねえか」
「風の旅人は使うと、明日に筋肉痛が確定するんだよ。か弱い乙女ならできるだけ使いたくないっていうのが、乙女心だよ」
「あんたが乙女って・・・・・冗談だろ?」
「君、殴るよ?」
陽華と明夜の放った浄化の光を傍目に見ながら、アカツキとかかしは軽口をたたき合っている。
そうこうしている内に、闇奴が浄化され中年と思われる男性が光の中から姿を現した。
「ご苦労様、2人とも。後はこのおじさんを介抱して――ん?」
アカツキがそう言って2人を労う。
しかし、そこで奇妙な事が起こった。




