第589話 歌姫オンステージ15(1)
「はあ、はあ・・・・・・って、うわわ!? わ、私の手が燃えてる!?」
アイティレを吹き飛ばした陽華は、自分の右手に炎が灯っている事に気がつくと、驚いたようにそう声を上げた。
「あれ? でも熱くない・・・・?」
陽華は自分の手に炎が宿っているというのに、熱を感じない事に気がついた。何とも不思議な現象だ。
「――それはそうだろう。それはただの炎ではない。君の能力によって発現した炎だからな。使用者が熱を感じる事はない」
「アイティレさん・・・・・・・・・?」
下げていた視線を戻すと、正面からいま吹き飛ばしたアイティレが歩いて戻って来ていた。アイティレは咄嗟に防御をしていた。そのため吹き飛んだといえど、それほど勢いよく飛ばされなかったのだろう。そして空中で姿勢を整えてすぐに着地した。流石は光導十姫といったところだ。
「おめでとう、陽華。君は壁を超えた。その炎が、君の光導姫としての性質であり能力だ」
「これが私の・・・・・・」
自分の右手に揺らめく炎を見つめながら、ポツリと言葉を漏らす陽華。だが、陽華はハッと何かに気がつくとアイティレの腕に視線を向けた。
「ア、アイティレさん大丈夫でしたか!? 私、炎が出るなんて思ってなかったから、つい本気で殴っちゃいましたけど!?」
「ああ心配するな。服が多少焦げて少し火傷をしたくらいだ。服は次に光導姫形態になった時に元に戻るし、火傷も軽く治療すればすぐに治る」
「そ、そうですか。よかったー・・・・・」
アイティレは自身の右手に視線を向けながら、陽華にそう言った。アイティレの白い軍服風の衣装は前腕部辺りが黒く焦げ付いており、その下の雪のような白い肌には赤い傷跡がある。しかし、今アイティレが説明した通り、心配する程の事ではない。陽華はホッとしたように息を漏らした。
「全く、大したものだよ君たちは。2人同時に壁を越えるんだからな」
「2人同時・・・・・・・・?」
「見てみろ」
不思議そうな顔を浮かべる陽華に、アイティレは自分から見て右、陽華から見て左の方に指を指した。陽華はアイティレの指の先、ここからかなり離れた遠距離タイプの研修場所に視線を向けた。
「明夜・・・・・・・」
そこにいたのは水の龍を従える親友だった。明夜は陽華と同じように、教官役である真夏と何かを話しているようだった。
「あの水の龍を見れば分かる。明夜は君と同じように自分の壁を超えた。君たちはだいたい何でも一緒だが、まさか強くなる時も一緒だとはな」
アイティレが笑みを浮かべる。陽華は釘付けられたように、その視線を明夜に向け続けた。
「ッ・・・・」
すると、明夜もこちらの方に気が付いたのか、顔を陽華の方に向けて来た。明夜は陽華の姿を見ると、笑いながら拳を突き出した。
「ふふっ、やったね明夜」
陽華も燃える拳を前方に突き出す。先ほどの約束はお互いに果たした。2人の心は今、1つだった。
「ようやった、ようやったで陽華! 自分、ホンマに最高やで!」
「わわっ!? か、火凛?」
いきなり肩に誰か組みついてきたので確認してみると、火凛だった。火凛はまるで自分の事のように喜んでいる。




