第587話 歌姫オンステージ14(3)
(・・・・・・・・気力が今まで以上に充実している。確かに、今までよりかは期待できそうだな・・・・)
自分の前に立つ陽華の気迫が、この研修が始まって以来最も強い。アイティレは陽華の姿を見てそう感じた。
「いいだろう・・・・・ならば、貴様の強い正の感情を以て、壁を超えてみせろ!」
「超えて・・・・・・・・みせます!!」
両手の銃を構え戦闘態勢を取ったアイティレに、陽華は真正面から突っ込んだ。
「会長。陽華との約束なので、私はこの戦いで今の私の限界を超えます。だから、真夏さんには一泡といかずに二泡三泡くらい、吹いてもらいますよ」
一方、奇しくも陽華と同じタイミングで真夏の前に立った明夜は、不敵な顔でそんな宣言を行った。
「へえ、私に泡を吹かせるとは大きく出たわね。じゃあ、期待してまたボコボコにしてあげるから、掛かって来なさい! 名物コンビのアホの方!」
「誰がアホの方ですか!? 絶対泡吹かせてやるんだからッ・・・・・・!」
真夏のその呼び方に、思わずツッコミを入れた明夜は杖を構えると、氷と水の魔法を行使した。
自分の戦闘タイプの教官と、それぞれ同時に戦いを始めた陽華と明夜。この戦いで絶対に壁を超える。先ほどの約束で2人の気力は、この研修が始まって以来最高にまで高まっている。そんな2人に、友人である火凛と暗葉は応援の言葉を投げかける。
「頑張れやー! 陽華、明夜! あんたらなら絶対いける! 限界超えてみせえや!」
「が、頑張れ・・・・・! ふ、2人なら、大丈夫・・・・・・・!」
火凛は普段も大きい声を更に大きくして、暗葉も自分に出せる精一杯の声で応援した。そして友人2人のその声は、陽華と明夜にしっかりと届いていた。
((ありがとう、火凛、暗葉・・・・・・・・!))
言葉には出さなかったが、内心で陽華と明夜はそう感謝の言葉を述べた。
「では、第1の問いかけだ。――お前はなぜ、光導姫になった?」
「1つ目の問いかけよ。――あんたは何で、光導姫になったの?」
教官であるアイティレと真夏が、陽華と明夜にそんな質問をした。この『実戦研修』は、戦いながら教官が問いを投げかけ、研修生である光導姫がその問いに答えるというもの。そのため、アイティレは陽華の拳や蹴りを避けいなしながら、真夏は明夜の水や氷の遠距離攻撃を自身の呪符で迎撃しながら、問いかけを行なっていた。
なお、問いかけの形式は決まったものもあれば、決まっていないものもある。例えばこの「なぜ光導姫になったのか」という問いかけは、ほとんど絶対使われる形式だ。決まっていない形式に関しては、教官である光導姫の裁量に任せられている。
「私が光導姫になったのは、困っている人を助けたいからです! 闇奴になった人たちは、勝手に心の闇を利用されて困ったり苦しんでると思うんです! 私は、そんな人を助けたい!」
「自分が闇奴になってしまった人を助けたいと思ったからです。助けられるのなら、助けたい。それが人ってものでしょう・・・・・!」
研修中に幾度も問いかけられたその問いに、陽華と明夜も幾度目となる答えを返す。2人の答えは変わらない。この原初の思いだけは絶対に変わらない。




