第586話 歌姫オンステージ14(2)
「まあ、それは間違いないやろな。こんだけ格上にボコられてたら、嫌でも強なるわ」
「・・・・・・双調院さんは凄いね。昨日で能力の強化に至ったんだから。それだけ、双調院さんの覚悟と気持ちがあったって事だし」
「いけ好かん奴やったけど、実力と気持ちは本物やったな。でも、ウチはあのお嬢様に負けるつもりはないで。ウチはもっと強くなって、もっと金を稼ぐんや。やから、死んでも能力の拡張したるわ!」
グッと左の拳を握り、火凛は強気な笑みを浮かべた。その火凛らしい理由と、笑みを見た陽華は思わずクスッと笑ってしまった。
「やっぱり、火凛は火凛だね! うん、まだまだ、くよくよなんてしてられない! 私も強くなるんだ。あの人みたいに。そして、その力で困っている人たちを助けたい!」
ガンッと両手のガントレットを合わせながら、陽華も決意の言葉を口にする。陽華は強くなりたい。自分や明夜を助けてくれたスプリガンのように強く。強くなって、闇奴や闇人といった闇に落ちた人々の心を晴らしてあげたい。いや、欲を言えばいま言ってように、困っている全ての人々を助けたい。
だって朝宮陽華という人間は、人の笑顔を見るのが大好きだから。
「ふっ、その意気よ陽華」
すると、そんな声が聞こえて来た。声のした方向を見ると、真夏に吹き飛ばされていた明夜が、陽華と火凛のいる方に歩いて来ていた。
「私の思いも陽華と同じ。私も強くなって、人を助けたい。だから・・・・・今日で壁を超えて、一緒に強くなるわよ、陽華」
寒色系のコスチュームを纏い左手に杖を持った明夜が、右手を拳にして陽華の前に突き出して来た。その顔は笑みを浮かべていた。
「うん! 今日で、いや次の戦いで壁を越える! やるよ明夜! 一緒に強くなろう!」
「ええ、なら次で超えたりましょう」
陽華は元気いっぱいの笑みを浮かべ、突き出された明夜の拳に自分の右の拳を、ゴチンッと突き合わせた。
「おー、ええなあ青春って感じや! よっしゃ、ウチも気合いが更に入って来たで! 絶対に今日で壁を超えたるわ!」
その2人の様子に感化されたように、火凛がメラメラとその瞳を燃やした。
「火凛なら大丈夫だよ! じゃあ明夜、また後でね! 暗葉にも頑張ろうって伝えておいて!」
「任されたわ。火凛も頑張って」
明夜は陽華の言葉に頷くと、再び真夏の担当する遠距離タイプの研修場所へと戻っていった。
「よしっ! 今なら、絶対いける気がする!」
「おうよ! 絶対にいけるで!」
陽華と火凛も気力全開といった感じで、自分たちの担当教官であるアイティレの元へと戻っていった。
「次ッ! ――ほう、先ほど吹き飛ばしたのにもう向かって来るか。だが、ただがむしゃらに向かって来るだけなら、何の意味もなく何度も吹き飛ぶだけだぞ、陽華」
「分かってます。もう何十回もアイティレさんにはぶっ飛ばされましたから。でも、今回は違います。本気の本気の思いで、私は壁を超えます! 今回ぶっ飛ばされるのは、アイティレさんです!」
研修に参加している光導姫を、新たに吹き飛ばしたアイティレが、陽華に向かってそう言葉を投げかけてくる。そんなアイティレに、陽華はガントレットを纏った拳を構えながら、真っ直ぐに宣言を行った。




