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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
585/2051

第585話 歌姫オンステージ14(1)

「はああああああッ!」

「遅い!」

 白に包まれた世界の中、暖色系のコスチュームに身を包んだ少女――陽華の気合いのこもった声が響く。その声に厳しい声を返したのは、軍服風の服装に身を包んだアイティレだった。 

 陽華の右のストレートを回避したアイティレは、陽華の腹部に蹴りを叩き込むと、そのまま陽華を吹き飛ばした。

「ぐっ・・・・・・・!?」

「貴様の思いはその程度か? その程度ならば、しばらく寝ているんだな。――次ッ!」

 アイティレは陽華を吹き飛ばすと、次の光導姫へとそう呼びかけた。アイティレに呼ばれた光導姫は「は、はいッ!」と返事をすると、アイティレの方へと向かっていった。

「い、いたたた・・・・・・・・・流石アイティレさん、容赦ないや」

「大丈夫かいな陽華? 全く、ほんまに鬼やで『提督』はんわ」

 吹き飛ばされた陽華を心配するように、関西弁を話す少女、御上火凛がそう言葉を掛けてきた。火凛は、赤色と白色を基調とした浴衣のような服に身を包んでおり、右手には大きな斧を携えていた。火凛の光導姫としての姿だ。

「うん、大丈夫。アイティレさん、本気では蹴ってないから。それにしても・・・・・・中々能力発現しないね、私たち」

「ほんまにな。近距離型の光導姫は、戦闘能力は高いけど、浄化力はそれほど高ない場合が多い。だから、その浄化力を能力でカバーする・・・・・っちゅう話やけど、その能力を発現させんのが、こないムズイなんて知らんかったわ」

 陽華の言葉に同意するように、火凛がため息を吐く。午後の研修が、この実戦研修に移って今日で6日目だ。

 今日は8月14日の火曜日。時刻は午後2時過ぎ。扇陣高校第3体育館内では、『メタモルボックス』のプラクティスルームを使用し、新人の光導姫と守護者の研修が行われていた。

「ふっははは! その程度の気持ちじゃ、力の強化なんて夢のまた夢よ! もう1回出直しなさい!」

「――残念ながら、あなたの芯はまだ固まっていないみたいですね」

 陽華と火凛が言葉を交わしていると、そんな声が聞こえてきた。それぞれ声は違う場所から聞こえてくるが、2人はその声の主を知っていた。光導姫ランキング10位『呪術師』の榊原真夏と、光導姫ランキング4位『巫女』の連華寺風音だ。

「おーおー、明夜も吹き飛ばされよったで。しかも次は暗葉やん。暗葉、相変わらず足ガクガクやけど、あれ死んだな」

 真夏に綺麗にぶっ飛ばされた明夜を見つめながら、火凛がそう呟いた。そして火凛の視線の先には、緑と黒を基調とした装束を纏った暗葉が、生まれたての子鹿のような姿で立っていた。一応、あの姿が暗葉の光導姫としての姿だ。

「にしても、ほんまよう出来とるでこの研修。近距離、遠距離、バランス型、それぞれの光導姫のタイプに合わせて、その最高レベルの光導姫が相手をする・・・・・最上位と自分のレベルを実際に感じつつも、能力の拡張と強化を促すんやからなー」

「うん、私もそう思う・・・・・・・・正直かなりキツイけど、この研修を乗り越えた時、私は絶対に強くなってる。それが確信できるもん」

 『実戦研修』。光導姫の場合、その形式はそれぞれ3人の教官の中から、自分と同じ戦闘タイプの教官を選び、問答し戦うという形式を取る。つまり、今回の研修の場合だと、近接型の光導姫はアイティレと、遠距離型の光導姫は真夏と(正確に言うと、真夏のタイプは特殊型寄りだが、真夏は基本的には遠距離で戦うため、今回の場合は遠距離タイプの教官をしている)、バランス型の光導姫は風音と戦うという形になる。なお、光導姫のタイプには例外として特殊型があるが、今回研修生に特殊型の光導姫はいないので、特殊型の教官はいない(いた場合は、真夏が遠距離型と一緒に担当するはずだった)。

 この実戦研修の目的は、光導姫の能力の性質の拡張・強化である。能力が未だに発現していない光導姫は能力の拡張を、能力が発現している光導姫は能力の強化を目的としている。陽華と火凛は、未だに能力が発現していないので拡張を目的に、明夜と暗葉は能力が発現しているので強化を目的、という形になる。

 しかし、実際にはこの能力の拡張、又は強化は一筋縄ではいかない。強い正の感情を抱き、本当の本気でその感情を昇華させなければ、能力の拡張又は強化は果たされない。現時点で、能力の拡張又は強化に至った光導姫はまだ1人だけだ。

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