第58話 共闘(3)
「・・・・・・・何だ、ありゃ」
大通りに面する少し大きな建物の屋上でスプリガンに変身した影人は疑問の声を上げた。
ソレイユから闇奴が出現したと念話が送られてきたときは、またかと思い家から近かったので走ってきたが、大通りというこれまたどこに隠れて様子を窺えばいいのか難しい場所が現場だったので、前回と同じく高い場所から観察しようという結果に落ち着いたわけである。断じて高い場所が好きだからというバカみたいな理由ではない。
守護者が光司ではなくよく分からない人物なのは気になったが、ソレイユ曰く「たまたま近くに守護者がいたので、その人物を現場に向かわせたとラルバが言っていました」ということだ。本来なら光司という上位の実力が伴った守護者に今回も同伴してもらいたかったとソレイユは言っていたが、今回はランカーの光導姫もいるということで、大丈夫だと判断したようだ。
影人も先ほどから4人と闇奴の戦闘を見守っていたが、自分が介入するほどの危機はないと判断していたのだが(ソレイユも納得していた)、闇奴の姿が変化したという初めての事態に、影人はどう行動するべきなのかわからない。
「――で、あれは何なんだソレイユ」
ゆえに影人はソレイユにそう質問した。
『――あれは段階進化と呼ばれるものです。人間の負の感情、心の闇が他の人間より強い者は、稀に段階進化という現象を起こします。端的に言うと、闇奴の強さが跳ね上がります』
「・・・・・・じゃあ、ヤバイじゃねえか」
ソレイユの説明に影人は端的な感想を口にする。
影人がこうして屋上から見守っている間にも、陽華と明夜、それに影人の知らない光導姫と守護者は段階進化を起こした闇奴と戦っている。
『確かに今の陽華と明夜には厳しい相手でしょう。まさかあの闇奴が段階進化をするとまでは考えていませんでした』
「なら助けに入るか・・・・・?」
影人が帽子を押さえて、ここにはいないソレイユにそう問いかける。あの2人がピンチならそれを助ける。それが影人のスプリガンとしての仕事だ。
『・・・・・いいえ。幸いにも今回は闇人には段階進化していません。あの闇奴は闇人に近い力を持ってはいますが、闇奴に変わりはありません。それに光導姫アカツキと守護者もいます。ならここはあの2人の成長のためにも見守りましょう』
だが以外にもソレイユの判断は影人が予想していたものとは違っていた。
「・・・・・・・意外だな。お前はもう少し過保護だと思ってた」
『それは必要な時だけです。陽華と明夜も時には自分たちより上の力を持つ闇奴と戦わなければ、成長は見込めません。だから影人、今は手出しをしないでください』
ソレイユは神界にいるため、もちろん顔は見えないが雰囲気から厳しい顔色をしているだろうと察した影人は、「・・・・わかった」と一言だけ返した。
『・・・・・・私は薄情な女神です。あの子たちが今までと違う危険な相手と戦っているというのに、私はあえて陽華と明夜を突き放している』
ソレイユがなぜ陽華と明夜のことだけを気にしているのかと言えば、2人がソレイユの切り札の1つというのも、もちろんあるが、単純に2人の実力があの闇奴と戦うには足りていないからだ。
アカツキは光導姫ランキング25位。闇人と戦うこともある彼女のことは、ソレイユも心配していない。彼女の実力ならば、あの闇奴を間違いなく浄化できる。
守護者に関しても、影人の視覚から様子を見ていたが相応の実力はある。
ただし2人とも陽華と明夜のことを気にしながら戦っているので、未だに段階進化した闇奴に決定打を与えられていないというのが現状だ。
「・・・・・・違うな」
影人もそのような事情はなんとなく察していた。そして敢えてそのような返答をソレイユに言い放つ。
『違うとは・・・・・?』
「俺をお茶に誘うためにあんだけはしゃいでたお前が薄情なわけねえだろ。あいつらが戦うことはあいつら自身が選んだ選択だ。例えあいつらが傷を負ったとしてもそれは自己責任。それに、冗談じゃなく死のリスクのある光導姫ならお前の言うように成長して実力をつけることが、あいつらの生存に繋がる。そういう事情を込みにして、お前はその判断をしたんだろ。・・・・・・・だからお前は薄情なんかじゃねえよ」
ただただ事実を確認するような口調で影人はソレイユの薄情な女神という言葉を否定する。影人のその言葉を聞いたソレイユはしばらく呆けたように口を開かなかった。
『・・・・・・・・・・あなたという人は、本当に・・・・・・・ありがとうございます。私を励ましてくれて』
「勘違いするな、お前を励ましたわけじゃない。俺はただ事実を言っただけだ。・・・・・・・後、俺はお前に無理矢理この仕事やらされてるから、さっき言った自己責任には当てはまらないからな。つまり俺になんかあったらお前のせいだ」
少し照れたように影人は早口でソレイユの言葉を否定した。
『ふふっ、分かっていますよ。・・・・・・影人、もし本当に危険が訪れた場合には――』
ソレイユは全て分かっていると言った口調で影人の言葉を受け取ると、影人に指示を1つ言おうとした。だが、影人はソレイユの言葉の続きを分かっていたように、その続きを言葉に出した。
「――いつも通り助けろ、だろ?」
『ええ。お願いします』
影人は鷹のようにその金の瞳で引き続き戦闘を見守った。
こちらの方に投稿させて頂いて、約2か月ほど。気がつけば100ポイントを超えました。非常にありがたく、嬉しいです。次は目指せ1000ポイントです。たぶん1、2年ほど掛かりますが頑張ります!




