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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第579話 歌姫オンステージ13(1)

「ったく、何で俺が・・・・・・」

 釜臥山での戦いから一夜明けた、8月13日の月曜日の昼過ぎ。影人はガリガリと頭を掻きながら、真夏の青空の下を歩いていた。服装は半袖に半パン。日除けの薄いパーカーを羽織り、足元は普段履いている運動靴といったような感じだ。

 影人がなぜ、ぶつくさと独り言を言いながら歩いているかというと、それは今日の朝『歌姫』ことソニア・テレフレアから来たメールに端を発する。

 影人は昨日戦いが終わり自宅に戻ってから、一応ソニアのアドレスにメールを送った。正直メールを送るのも気が進まなかったが、暁理からなぜか「メールを送るか電話してあげろ」と何度も言われていたので、影人は後に何を言われるか分かったものでもないので、送らざるを得なかった。

 それに影人も多少は気になっていたのだ。ソニアがなぜ自分の事を知っていたのか。いやまあ、昨日の夏祭りでの反応からするに、自分がソニアと会った事を忘れているようなのだが。

(結局、会った記憶は思い出せなかったんだよなー・・・・・)

 そういうわけで、とりあえずソニアから渡されたメールアドレスに「帰城影人です。連絡をしてほしいと言われたので、一応」と書いて送信した影人だったのだが、今日の朝にスマホを見てみるとソニアから返信が来ていた。

 そこには、何やら昨日の事についての謝罪の言葉や、また会って話をしたいといった感じの内容が記されていた。そしてその会う日が今日で、昼過ぎから30分程の時間でお願いできないか、というものだった。まあ、ソニアは世界に名を冠する『歌姫』。それに明後日には日本でのライブも始まるので、日時の都合がその時間しか合わないのだろう。

 なので、影人も急ではあったが、ソニアのその都合に合わせる事にした。幸い、影人は夏休みの学生だ。それに加えて、孤独好きのボッチ野郎である。予定などはつけようと思えば、いくらでもつける事が出来る。

 まあ、それでも面倒なものは面倒なので、影人は愚痴をこぼしたのだが。

『くくっ、つくづく光導姫と縁がある野郎だよなお前は。いいじゃねえか、こういうのをモテモテって言うんだろ?』 

「アホ言うな、どこをどう見たら俺がモテモテに見えんだよ・・・・・・・・俺の場合は、単純に面倒ごとに呪われてるだけだ」

 ポケットに入れている黒い宝石のついたペンデュラム。そのペンデュラムに意志を宿しているイヴが、影人にそう言葉を掛けてくる。イヴには昨日のソニアとの出会いの事については、もう既に話してある。

「それに、億が一にでもモテモテなんて状況は、俺は御免被るぜ。俺は孤独と自由を愛してんだ。色恋は、それとは相容れないもんだろ?」

 ハッと格好をつけた笑みを浮かべ、影人はイヴにそう言った。いつもの厨二全開な前髪野朗である。硬派を気取って、いったいいつの時代の価値観だ。周回遅れが過ぎる。

『けっ、相変わらず捻くれてイタい野郎だ。まあ、じゃなきゃ昨日女神の奴に言った言葉なんて言えねえわな。「忘れるな、俺はお前の剣だ」だったっけか?』

「ッ・・・・・!? そ、その言葉は忘れろイヴ。ソレイユの奴にあんな事言っちまうなんて、あの時の俺はどうかしてたんだよ・・・・・・・・・・・」

 その言葉に、影人は羞恥の表情を浮かべる。流石にいま思い返せば、あの言葉は中々に恥ずかしい。そして、その言葉を言った相手がソレイユというのも、恥ずかしいと影人が感じる要因だった。どうやら、前髪にも恥ずかしいという感情はあったらしい。目から鱗である。

『ははっ、絶対忘れねえ。ようやく俺もイジれる言葉をゲットしたんだ。せいぜい、忘れた頃に言って羞恥に悶えさせてやるぜ』

「鬼かてめえは・・・・・・・ったく、こういう時、過去の自分をぶん殴りたくなってくるぜ・・・・・・・・」

 そんな会話をしながら、影人はソニアに指示された場所――昨日訪れた、小学校前にたどり着いた。

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