第578話 歌姫オンステージ12(5)
「それに、『フェルフィズの大鎌』は神代に失われた武器なんです。赤い血を流していたという事は、あなたが言うように人間。なぜ、人間が神代の時代の武器を持っているのか・・・・・謎は深まるばかりです」
ソレイユはため息を吐いた。最近はその姿を現さなかった、闇奴殺しがまた姿を現した。しかも行動を聞く限り、明確にスプリガンを殺そうとした。スプリガンは怪人ではあるが、極悪人ではない。だというのに、襲われたというのは今までの闇奴殺しの共通点からも逸脱する。全く意味がわからない。
「本当にな・・・・・・・・・あと、悪かったなソレイユ。今回のレイゼロールの目的の阻害って言う仕事、失敗した。俺のミスだ」
「いえ、それは仕方がないですよ影人。今回は予期せぬ妨害もありました。だから謝らないでください。あなたに落ち度は何1つありません」
謝罪の言葉を述べる影人に、ソレイユは少し慌てたようにそう言った。確かにレイゼロールの目的は達成されたが、影人が謝るような事は何もない。
「分かった、ならもう何もいわねえ・・・・・・ああ、そうだ。そういや、今日また凄え闇の揺らぎを感じたんだが、お前も気付いてたか?」
「ッ・・・・・・・・・・はい、私も感じました。今回の力の発信源は釜臥山でした。おそらく、レイゼロールに関わる何かの揺らぎではないかと思われます」
影人の言葉に、ソレイユはギリギリ開示できるような情報と言葉を選びながらそんな答えを返した。カケラの事は、まだ影人にも伝えていない。
「・・・・・・・・そうか。とりあえず、報告はこんなもんにして、今日はもう帰ってもいいか? かなり疲れちまったし」
「あ、分かりました。あなたからの報告はもう充分ですし、後日光導姫たちからも報告を受けるので大丈夫です。なら、地上に送りますね」
影人が地べたから立ち上がると、ソレイユはそう言って転移の準備を始めた。
「・・・・・・・・・なあ、ソレイユ」
「何ですか、影人?」
影人の周囲に光が集まる。もうあと少しで転移するといったタイミングで、影人はソレイユに声を掛けてきた。
「今は何も言わねえ。お前が俺に明かせない事があっても、俺はお前の命令の通りに動くだけだ。俺はその辺りの事情は詮索しない。・・・・・・だけど、どうしても明かさなければならない事になったら、その時は明かしてくれると助かる」
「ッ・・・・・・・・・!?」
ソレイユの表情が緊張したような表情に変わる。影人はそんなソレイユの顔を見ながら、こう言葉を紡いだ。
「半ば強制的に影の守護者になった俺だが、最終的には俺が選んだ選択だ。最後までスプリガンの役目は果たす。まあ、俺の力が闇の属性だったから、お前も色々と当初の予定とは、俺の扱いが狂ってるだろう。何せ、スプリガンって言う正体不明の怪人が生まれたのは、偶然の産物だったからな」
影人の脳内に思い出されるのは、初めてソレイユと出会い力を授けられた時の記憶。あの時から、影人の人生は良くも悪くも変わった。
「・・・・・・多分だけどよ、お前の前の発言とかを考えると、そろそろ俺が正体不明を貫いてきた事が意味を為す時が近づいてきたんじゃねえのか? まあ、それにお前の隠してる事が関わってくるかどうかまではわからねえけど」
「そ、それは・・・・・・・・」
影人の言葉にソレイユは口を詰まらせた。そのソレイユの様子は、影人の言っている事が正しいと半ば肯定しているようなものだった。
「別に答えなくていい。俺がいいたかったのは、今まで通り俺を使えって事だ。迷いなく俺を使え。気兼ねなく俺に命令しろ。忘れるな、俺はお前の剣だ」
「ッ・・・・!」
影人の真っ直ぐな言葉。その言葉がソレイユの胸を打つ。格好をつけた言葉ではない。影人はただ本心からそう言っている。
「じゃ、またな」
そして、そのタイミングで影人は光の粒子となって地上へと戻っていった。
「全く、あなたという人は・・・・・・ずるいじゃないですか。そんな事を言われたら、今まで以上にあなたを頼ってしまうじゃないですか」
あれこれと悩み自分が気を落としているかもと、影人は思ったのかもしれない。だから、そんな言葉を言ってくれたのではないだろうか。
「分かっています影人。いずれあなたにも、光導姫たちにもカケラの事は話さなければいけない。そして、レイゼロールが何者であるのかという事も」
そう言葉を漏らしながら、ソレイユはある決断もした。
「決めました。レイゼロールがカケラを過半数の5個以上、あと3個以上取り込んだならば、その時は影人に動いてもらいましょう。その時こそ、影人が予想している通り――スプリガンが正体不明である意味が為される時です」
本当はそんな未来は訪れて欲しくはない。だが、その未来が訪れる可能性は充分にある。ソレイユはそんな未来が来るかもしれないと思い、影人を正体不明の怪人という立場に置いたのだ。
だが、そうなった場合、影人には今まで以上の危険さと負担をかけるだろう。
「・・・・・すみません、影人。神とは名ばかり・・・・・・・私は、無力ですね」
ポツリと、ソレイユの様々な感情が入り混じになったような声が、虚しく響いた。




