第575話 歌姫オンステージ12(2)
だが――
「ダメよ響斬、殺しちゃ。その子たちが倒れているのは、私との戦いの結果。その結果をあなたが掠め取るのはダメ。私が許可しないわ」
シェルディアは響斬のその行動に待ったをかけた。その言葉を受けた響斬の刀がピタリと止まった。後1、2ミリといったところで、風音の体に刀が突き刺されるところだった。
「えー、マジですか・・・・・まあ、シェルディア様のご命令なら従いますけど・・・・・・・」
響斬は残念そうにため息を吐くと、刀を鞘に戻した。
「うん、素直に言う事を聞くのはいい子よ響斬。私が関与した戦闘で、光導姫や守護者の命を奪うのはフェアじゃないわ。それは、ソレイユやラルバが可哀想だしね」
ニコリと笑みを浮かべ、響斬にそう言葉を掛けたシェルディア。これもシェルディアの流儀の1つだ。シェルディアと戦った光導姫や守護者は、出来るだけ殺さない。シェルディアは自分の力が光導姫や守護者とは比べものにならない事を理解している。そんな自分が光導姫や守護者を殺してしまっては、パワーゲームがレイゼロールに偏り過ぎる事になる。それでは、ソレイユやラルバが不利になってしまう。
それに何よりも、そんな偏ったゲームは見ていてもつまらない。
だから、シェルディアは出来るだけ自分が関わった戦いにおいて、光導姫と守護者を殺さない。まあ、よほど癪に触る者であれば殺してしまうかもしれないが、基本はそのスタンスだ。
「キベリア、響斬、この山は転移が出来ないから、山の麓まで戻るわよ。この山を出れば、また転移は出来るようになるから」
「そんな面倒な性質の場所だったんですかここ・・・・・・・・どうりで『空間』の魔法が使えなかったわけね」
「いやー、それにしても久々の殺し合いだったなー・・・・・・・・うーん、でもやっぱり色々甘すぎた。また明日から鍛錬だな」
シェルディアは歩きながら2人にそう呼びかけた。シェルディアに呼びかけられたキベリアと響斬は、そんな事を呟きながらシェルディアの後へと続いた。
こうして、釜臥山での全ての戦いは幕を閉じた。
レイゼロールの探し物、神殺しの鎌を持つ黒フードの怪人、光と闇の戦いにこれらはどのような意味を持つのか。
――それらの答えは、文字通り神のみぞ知る。
「――大体、報告はこんなところだな」
釜臥山での全ての戦いが終わってから30分ほど経った時間。影人は神界のソレイユのプライベートスペースにいた。釜臥山は特殊な場所であったため、ソレイユと念話を行う事や、視聴覚の共有などが出来なかった。そのため、釜臥山での自分の行動などについて、影人はソレイユに報告をしているのである。
「なるほど・・・・・レイゼロールの言葉の通りなら、レイゼロールは目的を達した。それに、大鎌を持った黒フードの謎の人物ですか・・・・・・・・・・」
影人から報告を受けたソレイユは、難しそうな顔を浮かべながらそう言葉を漏らした。




