第574話 歌姫オンステージ12(1)
シェルディアに血を吸われた事によって、気を失ってしまった風音。気を失った事により、風音の変身は刀時や真夏と同様に解けてしまう。そして、光導姫の力で顕現していた龍神も、光の粒子となって消え去った。
「・・・・・ぷはっ。うん、とても甘く濃厚な血だったわ。それでいて、エネルギー量も充分。さすが、巫女の血ね」
気を失った風音の首元から牙を抜いたシェルディアは、ペロリと口元を舐めながらそう呟く。風音は気を失っているため、体から完全に力が抜けている。シェルディアはそんな風音の体をしっかりと支えていた。
シェルディアは、自分の牙を突き立てた風音の首に軽く手を当てた。すると、シェルディアが突き立てた牙の後は、綺麗さっぱりに修復されていた。
「わざわざ手厚いですね。光導姫に対して優しすぎませんか?」
シェルディアの方に歩いて来たキベリアが、そんな言葉を投げかけてくる。キベリアのどこか揶揄するような言葉に、シェルディアはこう言葉を返す。
「いいのよ、対価はしっかりともらったから。これくらいはサービスよ」
シェルディアは、気を失った風音をゆっくりと地面に寝かせる。血を頂いたといっても、シェルディアは失血死をするほど血を吸ってはいない。せいぜい、人間の身体に影響がない程度だ。それがシェルディアなりの流儀だ。失血死するまで血を啜るのは、下品に過ぎる。
「それにしても、あなたたちよく手を出してこなかったわね。私、何も言わなかったのに」
シェルディアがキベリアと響斬に向かって、そんな言葉を放つ。つまらない戦闘ではあったが、シェルディアは余計な茶々を入れられるのが嫌いだ。それは戦いにおいても同じだった。
「それはまあ・・・・・・・手を出す余裕もなかったですし。それに、手を出したら何か怒られそうだったのたで」
「右に同じく、ですね」
その言葉に、キベリアが答えを返す。キベリアの意見に追従するように、響斬も苦笑した。
「ふーん・・・・・まあ、あなたたちともけっこうな付き合いだものね。私の事も色々と分かってるか」
シェルディアは2人の反応を見て、勝手にそう納得した。
「じゃあ帰るわよ、あなたたち。もうこの場所にいる意味もないしね」
「やっとですか・・・・・・早く帰って、ゆっくりしたいです。魔力ももうほぼほぼないですし・・・・・」
「了解です。あ、でもその前に――」
シェルディアの言葉に頷いた響斬であったが、響斬はそう言葉を述べると、鞘に収めていた刀を再び引き抜いた。
そして倒れている風音の前まで移動すると、その刀を風音に突き刺そうとした。
「ちょっと止めを刺しときますね。実力のある光導姫と守護者を、3人も殺せるチャンスは中々ないですしね。今なら刺すだけで終わる」
サラリと恐ろしい言葉を述べる響斬。響斬は次の瞬間には、もう気を失っている風音の体に刀を突き刺そうとしていた。




