第572話 歌姫オンステージ11(5)
「ッ、来るなら来やがれ! 死なないなら、死ぬまでぶった斬って――」
刀時は気迫のある声でそう言おうとした。
だがしかし、刀時が最後まで言葉を述べる事は出来なかった。
「うるさいわね、寝てなさいな」
シェルディアはほとんど視認できない速度で、刀時との距離を詰めると、刀時の腹部に右の拳を放った。
「がっ・・・・・・!?」
ドンッと鈍い音が響き、刀時がその場に崩れ落ちる。崩れ落ちた刀時はその一撃で気を失った。そして気を失った事により、刀時の変身は解除された。
「剱原!?」
「剱原さん!?」
倒れた刀時の心配をするように、真夏と風音が声を上げた。
「そんな声出さなくても殺してないわよ。ただ、気絶させただけだから。私が光導姫と守護者を殺すのはフェアじゃないし」
心配する2人に、シェルディアはそう言った。シェルディアの殺す云々がフェアじゃない発言は、2人には意味が分からなかったが、とりあえず2人はホッと息を吐いた。
「ごめん、風音。あんたの言う通り、あのロリやばいわ。剱原が一撃でやられたし・・・・・気合い入れなおすわ」
真夏の表情が真剣なものに変わる。刀時は守護者ランキング3位の実力者だ。その刀時が一言で気絶させられた。相当以上の実力者でなければ、そんな真似は不可能だ。
「はい。榊原さん、こうなったら大技で一気に攻撃しましょう。この状況、私たちの力の残量的に、チマチマ戦う方が負け濃厚です」
「まあ、それが1番いいか・・・・・・分かったわ。風音、合わせるわよ!」
「はい!」
風音の作戦に真夏は頷いた。2人はそれぞれ、自身の力を練り上げていく。
「全式札、寄り集いて龍神となる!」
「我が呪よ。我が呪門を開け。呪門より来れ、我が下部。百鬼夜行に名を連ねし、がしゃ髑髏よ!」
風音の10の式札が全て集い、荒ぶる龍が顕現する。真夏の後ろに黒い門が顕現し、その中から巨大な骸骨の妖怪が現れる。龍神は荒い息を吐き、巨大な骸骨はカタカタと音を鳴らしながら、その眼窩をシェルディアへと向けた。
「龍神の息吹よ!」
「がしゃ髑髏、黒闢の光を放ちなさい!」
風音と真夏の命令を受けて、荒ぶる龍神と巨大な骸骨がその顎門を開ける。龍神の口元には白い光が、巨大な骸骨の口には黒い光が集まっていく。
「綺麗な光ね。白と黒のコントラストも素敵よ」
龍神とがしゃ髑髏の光を見たシェルディアは、危機感の欠如した声音でそんな言葉を漏らす。シェルディアがそう呟いている間にも、全てを消し去る光は大きくなっていく。
そして、その黒と白の光は最大限の大きさとなった。
「「行けッ!!」」
風音と真夏、2人の掛け声と同時に龍神と巨大な骸骨の光は放たれた。放たれた白と黒の浄化の力を宿した奔流は、真っ直ぐにシェルディアへと向かっていた。




