第571話 歌姫オンステージ11(4)
「剱原! 今すぐ後ろを確認しなさい!」
真夏が刀時に向かって叫ぶ。刀時はまだ先ほど首を斬った位置から動いていない。つまり、まだシェルディアのすぐ近くにいるのだ。
「後ろ・・・・・? あんまり首がない死体みたくないんだけどよ・・・・・・・・」
「いいから見なさい! そうか、位置ずれろ! こっからじゃ、あんたが邪魔でロリが見えないのよ!」
「分かった、分かったって! ったく、子供の首なし死体なんかマジマジ見たら、夢に出そうだからあんまり見ないようにしてたんだけどな・・・・・・・」
叫ぶ真夏にそう言葉を返しながら、刀時は仕方なく後ろを振り返った。そこにあるのは、少女の首なし遺体だけ。それだけのはずだ。
だが、
「ばぁ」
「ッ!? う、うおおおおッ!?」
振り返ってみると、そこには自分の首を持ったシェルディアが刀時を驚かすように立っていた。その普通はありえないホラーな光景を間近に見た刀時は、思わず後ずさった。
「ふふっ、いい驚きっぷりだわ。首を斬られた甲斐があったかしら」
シェルディアは生首だけの状態で、ニコニコと笑いながらそう言うと、自分の頭を切断された箇所に戻した。すると、まるで嘘のように傷口が塞がり、首は元通りに繋がった。
「は、はあ!? あのロリの体はどうなってんのよ!? ビックリドッキリ化け物ロリか!?」
「ッ、やっぱり首を刎ねた程度じゃ・・・・・」
信じられないものを見るような真夏と、あまり驚いてはいない風音。2人の視線は再びシェルディアへと釘付けになる。
「あら、服に穴が空いてるわ。ああ、そっか。さっきの光線のせいね。随分と久しぶりに攻撃を受けた、受けてあげたから、その事は失念してたわね」
シェルディアは自分の服を見て、軽くため息を吐いた。ゴシック服には10個の穴が空いている。自分の穴を空けられていた部位は、もう完全に再生されているが、服まではそうはいかない。久しぶりすぎて、シェルディアはその事を忘れていた。
「風音の攻撃も完全に治ってるし・・・・・ていうか、あんた何で普通に動けてんのよ!? 私の呪符はまだ機能してるはずなのに!」
「ああ、動けないって言ったのは嘘よ? この程度の呪いで私が動けないなんて事はないわ。さっき言ったでしょ、動かないでいてあげるって」
真夏の呪符は変わらずにシェルディアの全身に貼り付いている。
だが、真夏の問いかけに、シェルディアは首を傾げながらそう答えた。それがまるで当然の事であるかのように。
「な、何なんだよ・・・・・・お前はいったい、何なんだ・・・・・・・・・!?」
シェルディアの近くにいた刀時が、警戒と恐怖を内混ぜにしたような表情を浮かべる。警戒から刀を構え直した刀時に、シェルディアは優然とした笑みを浮かべてこう言った。
「ただの不老不死者よ、こちらの世界ではね。それより、やっぱり面白くはないから、終わりにさせてもらうわ」




