第569話 歌姫オンステージ11(2)
であるならば、リスクが高すぎる『光臨』を使う必要はない。風音はそんな風に考えていた。
「どうでもいいけど、さっさと攻撃するわよ。私の呪いであのロリは動けないし、なんか後ろの闇人どもも、あのロリが現れた途端攻撃してこなくなったけど、ここは戦場なんだから」
真夏がチラリと後方に視線を向ける。あの豪奢なゴシック服を纏った少女が現れてからというもの、真夏たちの背後にいるというのに、攻撃を行なってくる気配はない。その理由は正直分からないが、攻撃して来ないなら、今は放置していても問題はないだろう。
「そう、ですね。榊原さんが動きを縛ってくれている間に・・・・・・全力で攻撃します。剱原さん、私の攻撃と同時にお願いします」
「あいよ。じゃあ・・・・・・斬るかね!」
「第1式札から第10式札、光の矢と化す!」
風音が全ての式札から光線を発射する。それと同時に刀時も駆け出した。
「あらあら、恐いわ」
10条の光線と刀を持った守護者が近づいているというのに、シェルディアはまだ変わらず笑みを浮かべている。何も知らない人間がいれば、シェルディアが狂っているようにしか見えないだろう。
10条の光線がシェルディアに直撃した。シェルディアの体に10の穴が空く。光線に貫かれた穴からは血が出ない。レーザーは超高温。そのため、傷口は火傷のようになるからだ。
(剱原流剣術、『装斬』!)
シェルディアに接近した刀時は、シェルディアの首目掛けて自分の刀を真一文字に振るった。
剱原流剣術『装斬』は、ただの大振りな一撃の斬撃だ。全ての力を込めて、対象をぶった斬る剛剣。そのため、隙はかなりでかい。
放つ角度は正直どこでもいい。真一文字だろうが、右袈裟だろうが、左袈裟だろうが、兜割りでもどこでも。要は力を入れやすければ。
『装斬』は元はといえば、鎧の上からでも敵を斬れるように、刀時の先祖の1人が編み出した技であるらしい。そして、実際にその先祖は敵を鎧の上からぶった斬ったという。剱原家の巻物にそう書いてあると、刀時の祖父が言っていた。
この話を聞いた時、刀時は「ウチの先祖はゴリラかよ」と思った。明らかに人間の所業ではないだろう。
だが、守護者形態の刀時の『装斬』はその先祖以上のものだ。守護者の高い身体能力から繰り出される刀時の『装斬』は、鎧より硬いものもほとんど全て斬れると確信していた。
そんな全てをぶった斬る剛剣がシェルディアの首に迫る。『装斬』を喰らえば、間違いなくこの少女の首は飛ぶ。先ほどの響斬と同様に、刀時にはそのビジョンが見えていた。
そして、刀時の刀はシェルディアの首を呆気なく斬り飛ばした。
「え・・・・・・・・・・?」
その余りの呆気なさに、風音はついそんな声を漏らす。刀時の一撃が強烈なものだっただけに、シェルディアの首は天高く舞い、首の切断された断面からは、大量の赤い鮮血が噴き出していた。




