第566話 歌姫オンステージ10(4)
(くそっ・・・・・・・流石にそろそろキツいな。でも、それはレイゼロールも同じはずだ)
生死の関わる状況で、極限の集中を行なっている影人は自分の集中が少しだけ散漫になって来ている事を感じた。しかし、自分とレイゼロールの条件は同じ。ならば、先にボロを出した方が負けだ。
(って言っても、ボロに見せかけたフェイントの可能性も疑わなきゃならねえし・・・・・・・本当、ゲロ吐きそうだぜ)
レイゼロールの左の蹴りを右足で受け止めながら、影人は可能性を思考する。考えながら、集中するという行為に精神力が削られていくのが分かる。
(集中力ももう1分もすれば、相当ガタついてくるはずだ。なら、その前にどこかで仕掛ける。いや、その前にそろそろレイゼロールから仕掛けてくるか?)
影人がそんな風に考えた時だった。レイゼロールが大振りな左の手刀を放って来た。当たればただでは済まないだろうが、大振りな分明らかに他の攻撃よりは速度は遅い。であるならば、今の影人が避けられない理由はない。
そして、大振りな一撃を外してしまったレイゼロールに、明確な隙が出来た。
(流石にこれはブラフだろ。やるにしても、もうちょい自然にやれよ・・・・・・・だが、あえてそのブラフに乗ってやるよ)
影人には容易にこの隙がフェイントだと分かったが、自分の状態なども考えその仕掛けを受け入れる事にした。レイゼロールはここで勝負を決めるつもりだろう。なら、こちらも勝負を決める気で誘いに乗る。
影人は隙が生じているレイゼロールに、左拳による貫手を放った。貫手はレイゼロールの胴体に吸い込まれていく。
しかし、レイゼロールは影人の左手首を右手で掴むと、右足による蹴りを放って来た。
(まあ普通に当たれば、内臓が破裂するレベルの蹴りだな。レイゼロールに手首を握られてるから、避けれもしない。だがまあ・・・・・やりようはある)
影人はレイゼロールの前蹴りギリギリまで引きつけ、右足の膝でレイゼロールの踵を蹴り上げた。レイゼロールの蹴りは力の方向を変え、上へと向かう。その蹴りを顎にもらわないように、影人は顔を逸らした。
「ッ・・・・・!」
体制を崩したレイゼロールは反射的に、影人の左手を離した。今度こそ、本当にレイゼロールに隙が生じた――かに思えた。
しかし、レイゼロールは虚空から闇色の手を呼び出すと、宙にある自身の右足を弾かせて、右足を地面に戻させた。ドカンと勢いよく地面に戻った足が派手な音を立てる。そして地面に戻った右足と、影人の左手を握っていた右手を後ろへと引いた。その際、レイゼロールは右手を拳に変えていた。
明らかに強烈な一撃を放つ為の構え。その証拠にレイゼロールの右拳には闇が集中していた。




