第565話 歌姫オンステージ10(3)
「いらぬ返しだ」
しかし、流石は敵の親玉と言うべきか。レイゼロールは完璧にその一撃を回避した。
(ッ・・・・・・・・この反応速度、こいつまさか・・・・・)
余りにも完璧に自分の一撃を回避したレイゼロール。その反応速度に疑問を抱いた影人は、チラリとその目をレイゼロールの瞳に向けた。
すると案の定、レイゼロールのアイスブルーの瞳には、自分と同じように闇が渦巻いていた。
「眼の強化・・・・・・やっぱりか」
「何も貴様だけの専売特許ではない。まあ、我と貴様以外には、コントロールが繊細過ぎて出来はしないだろうがな」
レイゼロールはそう言いながらも、周囲から闇の手を複数呼び出した。影人も同時に、周囲から闇色の鎖を呼び出す。呼び出された手と鎖はお互いの主人に攻撃させまいと、激しく絡み合い激突し合った。
「そうか・・・・・・・なら、どっちの反応が速いか試してやるよ」
「いいだろう。来い」
その言葉をきっかけに、全身に『加速』を施した2人は更なる神速の近接戦を演じ始める。
影人が左手の剣を消し、左のストレートを繰り出す。レイゼロールも同じく右手の剣を消して、影人の左ストレートを右手で受け止めた。
今度はレイゼロールが影人の左手を受け止めたまま、左の昇拳を繰り出した。影人はその攻撃を顔を逸らして避ける。そして空いたレイゼロールの右の脇腹に蹴りを放った。
レイゼロールが影人の左手を離し、その蹴りを回避する。回避と同時、レイゼロールは右の掌を影人に向け、闇の光の奔流を放って来た。恐らく、触れてしまえば体が消し炭になるだろう。影人はその破壊の奔流を間一髪で避け、『破壊』の力を宿した右の拳を打つ。
「っ・・・・・」
レイゼロールは影人の右手に宿る力に気がついたのだろう。レイゼロールは自身も『破壊』の力を付与させた左手で影人の右の拳に触れた。その瞬間、お互いの『破壊』の力は相殺され、2人の『破壊』の力はその効力を失った。
今のやり取りで、お互い『破壊』の力を使っても意味はないと悟った影人とレイゼロールは、もう『破壊』の力を使わない事を選択した。
レイゼロールは左手で影人の右拳を払い、右の拳を放つ。今度は影人が左手でレイゼロールの右拳を払った。
2人の攻防を傍から見れば、何をしているのか理解出来ないだろう。それは、最上位の光導姫や守護者も例外ではない。元々高い身体能力を闇で強化し、闇によって全身を『加速』させている2人の動きは、それほどまでに速かった。
本来ならば、一撃で決着がついてもおかしくはないのだ。2人が戦っている世界は神速の世界。反応し対応する事さえ、不可能に近い世界なのだから。
しかし、影人とレイゼロールはその世界で明確に反応し動けている。敵の攻撃を見極め、受け流し、反撃している。それを可能にしているのが、2人の闇による眼の強化だ。闇による眼の強化により、いま2人の視界は全てがスローモーションに見えている。
ただ、この眼の強化は集中力を酷使するというデメリットがある。ましてや、影人もレイゼロールも互いの実力が並大抵のものではないという事を知っているため、2人はいつも以上の、極限の集中を以て攻防を重ねているのである。




