第564話 歌姫オンステージ10(2)
「俺とまた戦う気か・・・・・どうやら、前の結果を忘れちまったみたいだな」
「・・・・・・だから試すのだ。我を1度は退却させた貴様だからこそ・・・・・・・」
影人の挑発するような言葉に、レイゼロールはただ静かに言葉を返す。その様子はいつも通り、冷淡で怒りや不快の感情は全く見受けられない。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
闇を纏ったスプリガンとレイゼロール。2人の間に訪れる一瞬の、突然の静寂。スプリガンはその金の瞳を、レイゼロールはそのアイスブルーの瞳をただお互いに向け合う。
月が2人の黒を照らす。風が吹き、木や林といったものたちが自然の音楽を奏でる。
そして――風は止み、完全なる無音の世界がその場には展開した。
「シッ・・・・・!」
「ふっ・・・・・!」
その瞬間、両者は闇で強化された身体能力で地面を踏み抜き、お互いに敵へと急接近した。
互いに近距離戦の間合いに入った2人。レイゼロールはまず右手を貫手の形に変え、その右手でスプリガンを貫こうとする。
(はっ、喰らうかよ・・・・・・・!)
対して、影人は自身の眼を闇で強化する。眼を強化した事により、影人には世界が、レイゼロールの動きがスローモーションに映る。
影人はレイゼロールの貫手をギリギリで回避すると、右の拳を握った。影人が反撃に選択したのは、右の拳による一撃――と、レイゼロールに錯覚させるためだ。
(派手に転べよ・・・・!)
影人の本当の目的は、レイゼロールの足元だった。影人は右の拳による反撃に見せかけて、左足による足払いを行った。
しかし、その足払いはレイゼロールが敢えて右足を影人の左脚に当て返した事により、阻まれてしまった。
「ちっ」
影人は軽く舌打ちすると、左手に闇色の拳銃を創造した。そして至近距離から、レイゼロールに向かって発砲する。
「ふん・・・・」
至近距離からの音速の弾丸を、レイゼロールは当然のように回避した。レイゼロールは回避の行動と同時に右手に闇色の剣を創造し、右袈裟の斬撃を放つ。その一撃は、明らかに他の攻撃よりも数倍速かった。
(この攻撃だけクソ速い。『加速』を使いやがったか)
恐らくは、どんなにランキングが高い光導姫や守護者でも、この一撃を避ける事は出来ないだろう。それほどまでに、レイゼロールのこの一撃は速すぎる。
(急な緩急の差。上手い具合に攻撃してきたな。だが、俺は反応できる)
しかし、眼を闇で強化している自分ならば、反応する事は可能だ。影人は左手の拳銃を形状変化させて剣にすると、その剣でレイゼロールの神速の一撃を受け止めた。
「ほう・・・・・・」
「・・・・・・お返しだ」
影人は右手に闇色のナイフを創造すると、右手を『加速』させ、レイゼロールの左の脇腹へと振るった。今のレイゼロールと同じく、神速の一撃だ。
(さっきの黒フードもこいつは完全には避けきれなかった。なら、多少は期待できるか?)
神速の一撃に対応した上での、神速の一撃によるカウンター。流石のレイゼロールも、完璧に反応する事は難しいのではないか。影人はそう思った。




