第563話 歌姫オンステージ10(1)
「ふん、タイミングがいいのか悪いのか・・・・・よく分からない男だな」
スプリガンの姿を見たレイゼロールは、先ほど影に沈んで移動したシェルディアの事を考えながら、そう呟いた。スプリガンはシェルディアとはちょうど入れ違いになるような感じで現れたからだ。
「・・・・・・・知るかよ。俺の現れるタイミングなんざを知ってるのは俺だけだ。俺はただ、俺の目的に従って現れるだけだ」
そんなレイゼロールの言葉に、影人はそう言葉を返した。正直、影人にはレイゼロールが何を以てそう言ったのかは分からないが、取り敢えずそれっぽい言葉を言っておこうと思い、そう言葉を発しただけである。相変わらず、雰囲気は重視する厨二前髪野朗だ。
「ならば・・・・・お前はどんな目的で我の前に現れた? 何ゆえ、この山に来たか?」
答えはしないだろうとは思っていたが、レイゼロールは目の前の黒衣の男にそう問うた。未だに謎に包まれたスプリガンの目的。それとこの山に来た事に何の関係があるのだろうか。
「ふん・・・・・・・・答えてやると思うか?」
その問いかけに、影人は瞳を細めて答えを返した。影人がレイゼロールの前に現れた目的も、この山に来た目的も、影人は答えるつもりなど毛頭ない。全てが謎。それがスプリガンという怪人の特性だ。
「・・・・・・答えないであろうな、お前は。貴様とは数回しか会っていないが、貴様が無口であるという事は知っているつもりだ」
「・・・・・・・・・なら、一々無駄な質問をしてくるな」
レイゼロールの冷たい声音に、影人も冷たさと拒絶の意思を織り交ぜたような、暗い声でそう言葉を放った。
(とりあえず、レイゼロールには追いついた。だが、奴はもう目的を果たしたのか? それがわからねえ)
レイゼロールと言葉を交わしている間、影人は内心そんな事を考える。影人がソレイユから受けた指示は、レイゼロールの目的の妨害だ。ソレイユはレイゼロールは何か目的物があり、この山に現れたのではないかと言っていた。あくまで予想だとは言っていたが、ソレイユが嘘をついているであろうという事を加味すれば、その予想は真実のレイゼロールの目的であるはずだ。
つまり影人が危惧している事は、レイゼロールの目的――この山にあるであろう、目的物をレイゼロールはもう回収してしまっているのでは、という事だ。
(それに気になる事はもう1つある。さっき感じた、あの感覚。前にも感じた事のあるあの感覚は、一体何なんだ・・・・・?)
先ほど影人が感じた、凄まじい闇の力の揺らぎ。影人があの感覚を覚えたのは2回目。果たして、あの感覚と目の前のレイゼロールとは、関係があるのか。
(ああ、クソが。ソレイユと念話できりゃあ、状況ももうちょいハッキリするだろうによ・・・・・・・・)
念話が出来ないというのは、本当に不便だ。影人は改めてその事を認識した。
「ふむ・・・・・・ちょうどいい。少し試してみるか。貴様ならば、試すには充分だろうからな」
「試す・・・・・・・・だと?」
影人が色々と考えていると、レイゼロールは自分に視線を向けながら、そんな言葉を呟いた。試す、とは一体どういう意味なのか。影人にはレイゼロールの言葉の意味が分からない。
「ああ、我の現在の力がどれ程か・・・・・・・・・お前で試させてもらおう。スプリガンよ」
「ッ・・・・・・・!?」
レイゼロールの体から闇が噴き出す。そして闇はオーラとなってレイゼロールに纏わりついた。
その闇のオーラは前回戦った時よりも、どこかその密度が濃いように、影人には感じられた。




