第56話 共闘(1)
「いい加減こっちの名前で呼んでくれよ。な、アカツキさん?」
闇奴との戦闘の最中だというのに、ヘラヘラとした顔で灰色を基調とした服を纏った守護者スケアクロウは緊張を全く感じさせない声でそう言った。
「何度でも言うけど、面倒くさいんだよね。それと、意味は一緒だって何回も言ってるだろ。かかし」
「あんたもわからない人だなあ・・・・・」
かかしは大きくため息をついた。
アカツキがかかしと出会った際のおなじみのやり取りをする中、陽華と明夜は闇奴に注意を払いつつ、アカツキに言葉を投げかける。
「あの、アカツキさんはこの方と知り合いなんですか?」
「見たところ守護者のようだけど・・・・」
2人の質問にアカツキは軽く質問に答えた。
「うん。こいつの名前はかかし。一応守護者のランカーだから実力はあるよ」
「ス・ケ・ア・ク・ロ・ウな。初めましてお2人さん。出来ればもう少しお話ししたいところだが――それはまた後ほどだな」
スケアクロウはくるりとその少し短めの槍を片手で回すと、軽薄な笑みを貼り付けたまま光導姫たちの前に移動した。
「――――!」
キメラのような闇奴は羽の攻撃が効かないとようやく理解したのか、徐々にこちらに近づいてきた。
「来るぜ!」
「わかってるよ・・・・・!」
かかしの警告にアカツキはそう返した。
闇奴はその2本の足で地面を踏みしめながら、再び初めと同じように爪による攻撃を繰り出してきた。
「オーライ」
かかしは守護者らしくその攻撃を槍で受け止めそれをいなす。
その隙にアカツキは闇奴の後方に移動した。
「ブルーシャイン! 君は距離を取って援護してほしい! レッドシャインは僕たちと一緒に近接で!」
アカツキは先輩の光導姫らしく陽華と明夜に指示を飛ばしながら、剣で獣人タイプに分類される合成獣のような闇奴の背中を斬りつける。闇奴はその攻撃の痛みのためか少しよろめいた。
「「了解!」」
アカツキの指示に了承の意志を示した2人はすぐさま行動に移る。
「はあッ!」
明夜は闇奴から距離を取るべく駆け出し、陽華はガントレットを纏った拳で闇奴に打撃を与えた。
「――!」
浄化の力の宿った攻撃を受け闇奴は先ほどのアカツキの攻撃と同じく少しよろめく。そしてその隙を突いてかかしは闇奴の足に槍を突き刺した。
「隙ありだぜ」
ニヤリと笑いながらかかしは、闇奴が力任せに横薙ぎに振るった腕を素早く槍を引き抜きながらひらりと避けた。
大通りの街灯の明かりに照らされた闇奴の姿を見ると、今かかしが槍を突き刺した部分から黒い液体のようなものが流れ出していた。その黒い血のようなものは闇奴の力の源のようなものなのか、それを流せば闇奴が弱体化するのは光導姫・守護者の常識だ。
「チャンスだぜ、光導姫のみなさま」
しかし守護者は光導姫とは違い、闇奴を浄化することはできない。守護者に出来ることは攻撃により闇奴を弱らせることか、光導姫を身を挺して守ることだけだ。
「はい! ありがとうございます!」
「サンキュー、かかし!」
陽華と暁理はスケアクロウにそう言うと、闇奴に怒濤の攻撃を仕掛けていく。
「――!」
浄化の力が宿った斬撃に打撃を立て続けに受け、闇奴は悲鳴のような声を上げた。
そしてその攻撃から逃げようと、闇奴は片翼や鋭い爪を暴れるように振り回す。
「わっとっとと・・・・・! 危ないな!」
「くっ・・・・これじゃあ近づけない!」
暁理と陽華は闇奴から一旦距離を取る。スケアクロウも2人と同じく暴れ回る闇奴の攻撃を避け距離を稼いだ。
「まるで駄々をこねた子供だな・・・・・つっても近接が主体の俺らじゃ今の闇奴には近づけないんだよなー」
スケアクロウが困ったという表情を作る。その表情を横目でチラリと見たアカツキはスケアクロウに胡散臭いものを見るような視線を送った。
(本当に困ってるように見えないのは僕の偏見かな・・・・・・)
それはアカツキのスケアクロウに対するイメージが大部分を占めている、いわゆる主観というものなのだが、どうもかかしは本当に困っているといった感じに思えないのだ。確かに、かかしの言うとおり現在暴れている闇奴に近づくことは難しい。それは事実だ。
だが何というのだろうか。彼の軽薄さのせいなのか、かかしにはもっと底知れない何かがあるような・・・・・・
「――私を忘れてもらっては困るわね」




