第556話 歌姫オンステージ8(4)
「・・・・・・・・・」
影人の言葉を受けた黒フードが取った行動。それは再び大鎌を構え直すというものだった。
「・・・・まだやるってか。どうやら・・・・・・・・・よっぽど死にたいみたいだな、お前」
影人の口から凍えるような冷たい言葉が放たれる。影人が抱えていた焦りと苛立ちは、黒い殺意へと昇華した。しかも影人は気がついていないだろうが、瞳の瞳孔が完全に開いている。
黒フードの正体が完全に人間だと分かった今、影人は本気で黒フードを殺すつもりはない。何せ、人間を殺すのは罪だからだ。
しかし半殺し程度、いや7割殺し程度なら大丈夫だろう。要は殺しさえしなければいい。
『くくっ、くはははははっ! いい感情だなあ影人! やっぱお前はいい! 力が漲ってくるぜ! あの黒フードの野朗をぶち殺せ!』
影人の殺意という負の感情を察知したイヴが狂ったように笑う。影人はイヴの言葉を無視したが、確かに力が湧いて来るのを感じた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
殺気を全開にした影人と、全てを殺す大鎌を構える黒フード。今まで以上に容赦のない第2ラウンドが始まる。月夜の下、お互い黒に包まれた怪人たちの決戦は激化する。そう思われた時、
影人の後方、山の下部から誰かが走ってくるような足音が複数、2人の怪人の耳を打った。
「「ッ・・・・・・!?」」
その足音を聞いた影人と黒フードはその視線を急遽そちらに向ける。すると3人の男女が現れた。
「スプリガン・・・・・・・・? それともう1人は・・・・・誰だ?」
「さあ? なんかいかにも不審者って感じだけど・・・・・・・」
「これは・・・・・・・・どういう状況なんだ?」
現れたのは『提督』と『歌姫』、それと『騎士』こと香乃宮光司だった。3人は影人と黒フードを見るとそんな言葉をそれぞれ漏らしていた。
(3人だけ・・・・・って事は、残りの3人を置いてきて、追ってきたのか。まあ、あそこで全員足止めされてたらレイゼロールを追えないからな)
3人に視線を向けていた影人はそう推察した。本来ならばレイゼロールと戦う事を想定すれば、光司たちは6人全員でレイゼロールを追いたかったはずだ。しかし、背に腹はかえられないと思ったのだろう。半分の3人だけでもレイゼロールを追う、という事を光司たちは決意した、という所だろうか。
「・・・・・・・・・・」
影人と同じように、光司たちにフードの下から視線を向けていたであろう黒フードは、なぜか急に駆け出し、真っ暗闇な林の中にその姿を消した。
「なっ・・・・・ちっ、逃げやがったか」
もう足音もかなり遠くなっている。さすがは光導姫や守護者クラスの身体能力といったところか。あの黒フードは色々と気にはなるが、影人は黒フードを追う気はなかった。




