第555話 歌姫オンステージ8(3)
影人はスプリガンの身体能力に加え、自身の身体能力を更に闇で強化している。さらに、影人は右手を『加速』で強化した。その体から繰り出されるナイフによる突きは、ほとんど神速といってもいいものだった。
だが、黒フードもまともにその攻撃を受けるようなレベルの者ではなかった。黒フードは咄嗟に身を捻ると、影人の攻撃を回避した。
しかし、黒フードは完全には影人の攻撃を避けきれなかった。影人のナイフは黒フードの脇腹を掠めた。その際、少量の血が飛び散る。
その血の色は自分や普通の人間と同じ、赤色だった。
「赤か・・・・・・・なら、お前は人間か」
黒フードの血の色を確認した影人はそう呟いた。血の色は赤。闇人の血の色は黒なので、この黒フードの正体は闇人ではない。その事実が示すのは、レイゼロールサイドの人物ではないと言うこと。
そしていま影人が言ったように、神殺しの大鎌を扱うこの人物は人間だということだ。
「っ・・・・・・!」
黒フードは再び大鎌を振るってくる。影人に出来る事は避ける事だけなので、影人はその一撃も回避した。すると、黒フードは影人が回避した瞬間にバックステップで少し距離を空けた。
「・・・・・・・どうした? せっかくお前の距離に近づいてやったっていうのに、もう終いか? 神殺しの大鎌が聞いて呆れるぜ」
手の中でくるりとナイフを回しながら、影人は挑発するような言葉を黒フードに投げかけた。影人がこの言葉を投げかけた理由は2つ。1つは、挑発に乗ってくるようなわかりやすい人間かどうかを確かめるため。もう1つは、黒フードが扱っている武器を自分は知っているぞという事を暗に伝えるためだ。
「・・・・・・!」
影人の言葉を聞いた黒フードはまたも少し驚いたようだった。おそらく、影人がフェルフィズの大鎌の事を知っているとは思っていなかったのだろう。
『何をドヤ顔してやがる。俺が教えてやらなきゃ、お前知らなかったくせによ』
(別にドヤ顔はしてねえよ。別にいいだろ、情報は活用しねえとだからな)
イヴと内心そんなやり取りをしながら、影人は油断なく黒フードを見つめていた。さあ、ここからこいつはどう動く。
(できりゃあ、さっさと退却してもらいたい所だな。じゃなきゃレイゼロールを追えねえし)
1番理想的な黒フードの行動はこの場からの退却だ。なぜなら、黒フードが立ち塞がる限り影人は先には進めない。
(さっきみたいに強引に抜きたい所だが、こいつはまだ色々と未知数過ぎる。俺が強引に抜こうとした時に、こいつが何かあの大鎌を強引に当てる手段があったのなら、俺はそこで詰む。なんせ、あの大鎌に守りは意味をなさねえからな)
フェルフィズの大鎌。あの規格外の武器のせいで、影人は慎重にならざるを得ない。レイゼロールを追わなければという焦る気持ちがあるため、慎重に行動しなければいけないというのは、じれったいが仕方ないのだ。




