第554話 歌姫オンステージ8(2)
(さすがにこいつは避けざるをえないだろ。お前は回避するしかない。そして回避した瞬間、『加速』して攻撃を叩き込んでやるぜ)
どんな人物でも回避した瞬間は硬直があるものだ。何らかの能力を持っている者ならば、その能力で動作の硬直に違う行動を取ってくるが、今のところ黒フードは得物が特殊なだけで能力を使用してはいない。ならば光導姫や闇人のように能力を持っているという可能性は極めて低い。まあ、ブラフの可能性も捨てきれないが。
つまり黒フードは身体能力だけは高い、守護者と同じ特徴を持った人物と仮定できる。
そうであるならば、油断をしない限り自分が負ける要因はない。影人はそんな風に考えていた。
だが、黒フードはまたも影人の思惑を上回る行動を行った。
「・・・・・・・・」
黒フードは影人が放った黒色の光の奔流を避けようとはしなかった。そして、黒フードは黒色の光の奔流に向かって、その全てを殺す大鎌を振るった。
その結果、
光の奔流は切り裂かれた。
「っ!? こいつもダメなのかよ・・・・・・・・!」
『バカ、言っただろ! フェルフィズの大鎌は全てを殺すんだよ! それは攻撃だろうが同じだ!』
影人の驚きの声を聞いたイヴが叱咤するような声でそう告げてきた。なるほど、全てを殺す。ということは、今の影人の攻撃も殺されたというわけか。
(クソみてえなチート武器だな・・・・・! しかもあの武器で刈られたら終わりって・・・・・・クソゲーじゃねえかよ・・・・・・!)
影人は内心そう愚痴りながら、こちらに向かってくる黒フードに向かって自分からも距離を詰めた。全ての遠距離攻撃がほとんど意味を為さないならば、選択肢は1つしかない。なお、影人の愚痴に対しイヴは『いや、お前がそれ言うなよ・・・・・』と、なぜか呆れたような言葉を呟いていた。
「・・・・・・!」
向かってくる影人に黒フードは少し驚いているようだった。まあ、それも当然だろう。何せ、黒フードは鎌で攻撃に成功さえすれば勝ち。どんな者だろうと、例え神だろうともそれで終わる。ゆえに近距離こそ黒フードの最強の距離。
だというのに、影人は自らその距離内に近づいていっている。この場合のセオリーは先ほど影人が行っていたように遠距離から攻撃するのが普通だ。傍から見れば、影人の行動は自殺行為に映るだろう。
だが、これこそが影人が黒フードに勝ちうる唯一の選択だった。
『そうだ影人、それでいい。フェルフィズの大鎌を相手にするなら、リスクを承知で近距離で戦うしかねえ。近距離でフェルフィズの大鎌を持ってる本体をぶちのめす。それが勝利への唯一の道だ。なーに、当たらなければどうという事はねえ!』
(ったく、無茶苦茶言いやがる・・・・・・!)
大鎌を真横に振るってくる黒フード。影人はその攻撃を避け、闇色のナイフを1本右手に創造した。そして、そのナイフを黒フードの胴体に向かって突き出す。
「・・・・・・・!?」
「・・・・・お前の血の色は何色だ?」
大鎌は近距離の武器ではあるが、その特性上、攻撃の1つ1つが大回りだ。先ほど黒フードは最小限の動作で大鎌を振るっていたが、それでも他の武器に比べれば動作はかなり大ぶりだ。
今の攻撃もほとんど最小限に振るったのだろうが、この近さだ。影人が攻撃を避けたその瞬間、黒フードには一瞬の隙が生じた。




