第551話 歌姫オンステージ7(4)
「ッ! 彼がそうか・・・・・・!」
自身の右手と刀を鎖に縛られている響斬が、そう言葉を漏らした。光導姫、守護者、キベリアが呼んだ黒衣の人物の名前。それは響斬もレイゼロールから聞かされていた怪人の名だ。
「なっ・・・・・・! あいつがスプリガン!? な、何よすっごく格好良く登場して! 腹立つわ!」
スプリガンを初めて見た真夏は、真夏らしい感性を全開にしてそんな言葉を放った。スプリガンが登場したからといって、レイゼロールの造兵の攻撃の手が緩まるはずもないので、真夏は造兵たちの攻撃を捌きながら、スプリガンの方に視線を向けていた。まあ、それは他の光導姫と守護者も同じだが。
(ッ・・・あれがスプリガン・・・・・・・・)
歌によって造兵たちに攻撃を行なっていたソニアは、歌いながらその視線をスプリガンに向けた。ソニアは会議ではスプリガンを敵とは認定しない意見に賛成したが、スプリガンと出会ったのはこれが初めてだった。
「・・・・・・闇纏体化」
そんな人物たちの反応をよそに、影人は自身の身体能力を闇で強化した。わざわざ言葉に出す必要はないのだが、厨二の前髪野朗はこの言葉が気に入っている。なら、余裕がある時は言葉に出したいというのが、遊び心というものだ。
「ッ・・・・・・や、やるっていうの? い、いいわ、ならこの前のお礼をしてやろうじゃない・・・・・・・・!」
スプリガンの体から立ち昇った闇のオーラを見たキベリアが、少し後退りをしながらそう言った。キベリアは1度スプリガンと戦い、ボコボコにされている。正確に言えば、キベリアをボコったのは影人の体を乗っ取っていたイヴなのだが、当然キベリアはその事を知らない。
結局なにが言いたいかというと、キベリアは自分をボコボコにしたスプリガンに対してトラウマを持っていた。つまり、キベリアの一見強気な態度は虚勢であった。
「・・・・・・・・ふん、言ったはずだ。さっさと突破させてもらうってな。お前らと遊んでいる時間は・・・・・・・・・ない!」
言葉を話している間に、自身に闇による『加速』と眼の強化を行っていた影人は、言葉を述べ終わると同時に全速力で駆け出した。『加速』を使っていたので、最初からトップスピードだ。「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」
闇による身体能力の強化と『加速』。スプリガンの掛ける速度はまさに目にも止まらない速さで、今までスプリガンに視線を向けていた者たちには、まるでスプリガンがその場から消えたように見えた。
(俺の最高速度でこの場を無理矢理に突破する。ったく、1番面倒なプランになっちまったな・・・・・!)
本来ならば、気づかれずにこの場を抜けるのがベストだった。この山の転移が出来ないという制約がなければ、転移をしてこの場を抜ければいいだけだった。現実はそう理想通りにいくものではない、ということか。




