第550話 歌姫オンステージ7(3)
『おっ、雑魚の闇人がいるじゃねえか。影人、あいつボコろう。ついでに光導姫と守護者どもにも、ちょっかい出して戦おうぜ』
(血の気が多すぎだお前は・・・・・つーか、俺の方から光導姫と守護者にはしばらく攻撃できないのお前も知ってんだろ。ソレイユに口酸っぱく言われたじゃねえか)
この山に入る前も似たような事を言っていたが、イヴはストレスでも溜まっているのだろうか。いや、元から血の気は多い方ではあったが。
『つまらねえこと言うなよ。ちょっとだけなら大丈夫だって』
(イタズラしようぜみたいに言うな。あのアホ女神が珍しく頑張った成果を故意に壊すほど、俺はクズじゃねえよ)
珍しく真面目な言葉を返す影人。影人の答えを聞いたイヴは『けっ、この根性なしが』と言葉を吐き捨て、不機嫌そうであった。
(それより、ここを抜くぜイヴ。今回は戦闘に参加しねえ。ソレイユの指示通り、レイゼロールを追う。ここにいる奴らは全員最上位っぽいから、俺が助けなくても大丈夫だろうしな)
光導姫と守護者は全部で6人。対して相手は最上位闇人としてキベリア、レイゼロールの造兵、それとジャージ姿の男――おそらく闇人だろう――だ。造兵は数は多いがそれ程強くはないし(影人主観)、あのジャージの男に至っては、正直あまり強いとは思えない。ゆえに影人は、レイゼロールを追う事を優先した。
(って訳でわざわざ目立つ必要はない。イヴ、とりあえずアレ出来ないか? ほら、この前戦ったあの女の闇人がやってた透明化。流石にこのまま林の中普通に進めば、戦闘中って言ってもどいつかに気づかれる可能性があるしな)
影人は自分の闇の力の意志に内心そう聞いた。あの黒髪黒マントの闇人は、攻撃を行うまで姿を透明にしていた。となれば、ほとんど自由といっていいスプリガンの力ならば、透明化をする事も可能ではないか。影人はそう考えていた。
『ああ? 出来るに決まってんだろ。俺の力は闇人どもとは次元が違うんだよ。闇人程度に出来る事が、俺に出来ねえはずがないだろ』
影人がそう聞くと、イヴはなぜかプライドが傷つけられたかのように不快そうであった。しかし、どうやら出来るには出来るようだ。
(んじゃ頼む。1回お前がやってくれれば俺も感覚はわかるから。透明化は便利だから次からもけっこう使いそうだしな)
『ちっ、めんどくせえな』
そう悪態を吐きながらも、イヴは闇による透明化を影人に施してくれた。影人の全身がスゥと世界に溶けていき、影人はやがて完全に透明となり世界から姿を消した。
(サンキュー、イヴ。コツは分かったし、これで俺も次から使えるな。よし、後はこのままこの戦場を抜ければ――)
影人がそう思った時、戦場に1つの動きがあった。和装の守護者がジャージ姿の闇人にカウンターをくらい、攻撃を受けたのだ。しかもジャージ姿の闇人は効率的に和装の守護者を殴打した後、その刀を和装の守護者の首に目掛けて振るった。
(ちっ! 世話の焼ける・・・・・・!)
戦場を観察していた影人は、光導姫たちや光司がレイゼロールの造兵に阻まれて、あの守護者を助けられないであろうという事が分かっていた。そう、もし助けられる人物がいるとするならば、それは自分だけだ。
(この前自分の位置を再調整したばかりで、いきなり守護者を助けるのはどうかと思うが仕方ねえ)
影人は林から飛び出すと虚空から鎖を呼び出した。幾条もの鎖がジャージ姿の闇人の右手と刀を縛り上げる。そして、攻撃を行った事により影人の透明化は解除された。
その事により、造兵以外の全ての者たちの視線が自分の方に向くのを影人は感じた。こうなっては気づかれずにここを抜けるという事は不可能となった。
となれば、ここを抜ける方法は1つしかない。
「・・・・・・・・・・面倒だ。さっさと突破させてもらう」
すなわち、強制的に突破するしか。




