第548話 歌姫オンステージ7(1)
「ッ!? 鎖・・・・・・・・!?」
突如として虚空から出現した闇色の鎖に、自分の刀と右手を拘束された響斬は驚いたようにそう呟いた。いったい誰が、どこから自分の邪魔をしたというのか。
「「「「ッ!?」」」」
だが、その鎖に見覚えがある人物たちが4人いた。すなわちアイティレ、風音、光司、キベリアの4人だ。
「あ、ありゃ・・・・・? 俺、生きてる・・・・・・・・?」
刀時は自分の首がまだ飛んでいない事に驚いていた。視線を刀の方に向けて見ると、刀と闇人の手は闇色の鎖で縛り上げられていた。いったい、誰が自分を助けてくれたのか。
正確に言うならば、刀時も1度はその鎖を見たことがあるはずだった。しかし、今の刀時は状況に少し混乱していたために、その鎖の事を思い出せなかった。
そして、その鎖を放った人物はキベリアの後方――山の下部からその姿を現した。
「・・・・・・・・・・面倒だ。さっさと突破させてもらう」
低く冷たい言葉を述べたその人物の姿が月光に照らされる。黒衣の外套に身を包むその姿は、彼の雰囲気と相まってまさに怪人と呼ぶにふさわしいものだった。
「「「「スプリガン・・・・・!」」」」
闇色の鎖に見覚えがあった人物たちがその怪人の名を、それぞれ抱く感情を込めながら呼んだ。
「で、ソレイユ。現れた闇人はどんな奴なんだ?」
時は少し遡り、影人が釜臥山に足を踏み入れた時。影人は山道を走りながら、ソレイユにそう問いかけた。出現した闇人が今まで出会った事のある闇人かそうではないのか。ソレイユは光導姫の視界などを共有する事が出来るので、影人はそう質問した。
「・・・・・・? おい、ソレイユ?」
だが、いつもならばすぐに言葉を返して来るはずのソレイユの声は影人の内に響かなかった。
どういう事だと影人が不審に思っていると、イヴがこんな事を言ってきた。
『あー、女神の奴との念話はたぶん出来ねえぜ。俺もこの山に入ってから気がついたが、この山は色々とおかしい、ていうか面倒な性質の場所みてえだ』
「面倒な性質の場所・・・・? どういう事だよイヴ」
どうやらイヴは何かを察したらしいが、影人にはいったい何の事だか分からなかった。
『簡単に言うと、この山の中は色々と外とは断絶してる。空間が断絶してるわけじゃねえ。空気が断絶してんのさ。だから、普通の一般人が入る分には何の問題もねえが、俺たちみたいな能力持ちには、デメリットが発生するってわけだ』
イヴはそこで一旦言葉を区切ると、こう説明を続けた。
『具体的には、気配の隠蔽や遮断、そういった力の強制解除。この山中での転移の禁止。後は、経路の強制断絶とかも含まれてるな。そういう事だから、お前と女神の経路はいま断絶されてるってわけだ。この山の外に出れば経路が再構築されて、いつもみたいに念話は出来るだろうが、今は無理ってことだ』
「マジかよ・・・・・・・・」
イヴの説明を受けた影人は、ついそう言葉を漏らしていた。イヴの言葉が本当ならば、この山は全くもって厄介と言う他ない場所のようだ。




