第539話 歌姫オンステージ5(3)
「ああもう、最悪だわ・・・・・これ、シェルディア様が戦わなくていいように、足止め係として私たちが連れて来られたって事よね? 本当にあんな見た目の癖に、やる事えげつないんだから・・・・・・・」
「ははっ、そうだね。見た目は人形のように美しい少女だけど、中身は自分の快がこの世の全てな、ある意味欲望に忠実過ぎる化け物。それがシェルディア様さ」
釜臥山に入りシェルディアに置いて行かれたキベリアと響斬は、軽く走りながらそんな事を言い合っていた。シェルディアの「先に行くわ。後、お願いね?」という言葉と笑顔を見た2人は、その時にシェルディアの思惑に気がついた。そう、シェルディアは自分たちの後からやって来るであろう、光導姫や守護者たちの足止めにキベリアと響斬を連れて来た、という事に。
「いや本当にえげつないよ。ぼかぁいま一般の人間とほとんど変わらないんだぜ? しかも自業自得とはいえ、剣の腕もすごく落ちてるし。そんな状態で、最上位の光導姫と守護者の相手しろって、いい修行になるだろって、・・・・・・・流石にえぐすぎないかい? これが愛の鞭だったら、僕は爆発四散するよ。というわけだからキベリアくん、僕の命は君にかかってる。頼む、僕を守ってくれ。後生だから!」
響斬は恥をかなぐり捨て、そう言って頭を下げた。そんな響斬の態度を見たキベリアは即座にこう答えを返した。
「嫌よ。別に私あんたが浄化されても何とも思わないもの」
「うんうん、そうかい。ぼかぁいま君が本気でそう思ってるであろう事に泣きそうだよ」
キベリアの心底嫌そうな顔を見た響斬は、内心涙を流した。
「というか、そんな余裕ないの。レイゼロール様の気配が漏れたって事は、向こうサイドは最上位を複数人送って来るはずよ。流石の私も自衛だけで手一杯になるに違いないわ。だから、無理」
「まあ、そうだよね・・・・・・」
続くキベリアの言葉を聞いた響斬は、ため息を吐いて首を縦に振った。響斬も、キベリアが自分を庇えない理由については分かっていたからだ。
「はあー、やっぱり気合で何とか生き残るしか――」
響斬がそう呟こうとした時だった。2人は後方から人が走って来るような音を聞いた。しかも複数人のだ。
「ちっ、もう来たか」
「嫌になるくらい迅速だね」
キベリアと響斬は立ち止まり、後方へと警戒を向ける。そして、キベリアは自身の右手につけていた銀の腕輪を外した。
「――7の万化、偽りの姿へと我を変化する」
途端、キベリアの最上位闇人としての気配が世界に露出した。
力を解放したキベリアが、自身の魔法を行使する。すると、キベリアの姿が変化した。深緑髪の長髪は赤髪の短髪に、グラマラスであった胸部はスマートな胸部へと。その際、体型と服のサイズも同時に変化した。




