第531話 歌姫オンステージ3(6)
雑貨屋での突然の出会いの後、響斬はシェルディアに誘われてシェルディア宅を訪れていた。道中響斬と話した内容によると、何でも響斬はシェルディアに会うために、ここ最近ずっとシェルディアを捜していたらしい。
何でも、あの雑貨屋の店主の女性に頼まれて一緒に撮った写真1つからあの雑貨屋の場所を突き止め、シェルディアが来るまで毎日あの店を訪れていたようだ。店主の女性によくシェルディアはここに来るという情報を、最初に訪れていた時に聞いたから、毎日通えばシェルディアと出会えるだろうと思った、と言ったような事を響斬は道中語った。
「・・・・・・・響斬、あんたえらく現代的な見た目になったものね。和服着てた印象強すぎて、最初誰かと思ったわよ。シェルディア様を捜し出した方法に至っては、ストーカーのそれだし・・・・」
「おおう・・・・・・やめてくれよキベリア君。それ僕もちょい思ってたんだからさ。メンタルに来るよ」
キベリアから若干引かれた目を向けられた響斬は、苦笑いを浮かべながらそう言葉を返した。言葉通り、内心けっこうメンタルに来た響斬だった。
「それで響斬、私を捜していた理由はいったい何だったのかしら? というか、あなたが普通に街中にいたって事は、あなたまだ力を封印されままという事よね?」
シェルディアがアンティーク調のイスに腰掛けながら、響斬にそう質問した。シェルディアはまだ肝心の響斬がなぜシェルディアを捜していたかの理由を聞いていない。響斬はシェルディアの問いにこう答えた。
「ああ、それはですね。実は――」
響斬は自分がなぜシェルディアを捜していたのかその理由について話した。イスに座りながら響斬の話を聞いていたシェルディアとキベリアは、響斬の話を聞き終えると、それぞれの感想を漏らした。
「ふーん、なるほどね・・・・・レイゼロールのカケラのあるかもしれない場所が分かったから、それを私からレイゼロールに伝えてほしい。うん、中々愉快なお願いね」
「でもそれネットの噂の範囲なんでしょ? 本当にそんな所にレイゼロール様のカケラがあるか、怪しくない?」
「それ言っちゃお終いなんだけどさ。でも、情報が無いよりかはいいでしょ。だから、ね?」
キベリアの指摘にまたも苦笑いを浮かべる響斬。キベリアの指摘は全く以てその通りなのだが、そもそもレイゼロールの探し物に、確定的な情報という物は存在しないので、噂でも情報があるというのはそれだけで値千金なのである。
「まあ、それはそうだけど・・・・・・・・」
「いいじゃないキベリア。響斬は頑張ってレイゼロールのために情報を集めたんだから。あなたの願いはわかったわ響斬。私があなたの情報をレイゼロールに伝えてあげるわ」
「本当ですか? ありがとうございますシェルディア様。これでぼかぁゆっくり寝れそうですよ」
シェルディアの承諾を受けた響斬はホッとしたような顔を浮かべる。シェルディアは早速、響斬から伝えられた情報を影から取り出した便箋に、同じく影から取り出した万年筆で書いていく。途中シェルディアは、「それにしても恐山ね。確かあそこは・・・・・ふふっ、面白い事になりそうだわ」と奇妙な事を言っていたが、言葉の意味が分からなかった響斬はあえてその言葉に突っ込まなかった。分かったのは、どうやらシェルディアが恐山を知っているらしいという事だけだ。
「はい、これで手紙は完成よ。後はこれをレイゼロールに送って・・・・・うん、終わりよ」
情報を記した手紙を書き終えたシェルディアは、左手を虚空に向けた。すると小さな黒い渦が出現する。シェルディアはその黒い渦に、まるでポストに入れるように手紙を放り投げた。
「これでレイゼロールは今夜にも恐山に向かうでしょうね」
「そうですね。いやー、重ね重ねありがとうございましたシェルディア様。じゃあ、ぼかぁは基礎稽古やら色々あるので、これで失礼します。忙しなくてすみません」
シェルディアに頭を下げた響斬はイスから立ち上がり、シェルディア宅を後にしようとしたのだが、シェルディアはどこか意地悪そうな顔をしながら、こう言葉を紡いだ。
「あら、どこにいくの響斬? あなたとキベリアは今夜私と恐山に行くのよ? ふふっ、きっと今夜は楽しくなるわ」
「「え・・・・・・・・・・?」」
シェルディアのその言葉に、響斬とキベリアは揃ってポカンとした顔を浮かべた。




