第530話 歌姫オンステージ3(5)
(歌姫サマのあの様子からするに、俺がスプリガンどうこうで絡んで来たってわけじゃなさそうだな・・・・あの言動から察するに、歌姫サマと俺は過去に会った事があるって事か? そして俺はそれを忘れている・・・・・・・・・?)
ソニアから接触された影人が1番初めに考えたのは、自分がスプリガンだとなぜかバレたのでは、というものだった。だが、どうやらソニアはその事とは全く関係ない、プライベートな事で影人に接触を図ってきたらしい。それが、いま影人が内心考えていた事なのだろう。
(プライベートでここの祭りに来てたって事は、歌姫サマはこの学校に在籍してたのか? じゃなきゃ、こんなローカル極まりねえ祭りになんか来ないよな)
そうであるならば、ソニアと影人が過去に出会ったのは自分がこの小学校に在籍していた時なのか。
(・・・・・・ダメだ、思い出せねえ。そもそも、小学校時代の記憶なんて、あんまりはっきりとはしてねえからな。祭りに関する事はたまたま覚えてたが・・・・・)
影人は内心そう呟き首を振った。小学校時代といっても、もう5年前だ。いくら影人が若いといっても、記憶は薄れてきている。まあ、それ以外にも影人の小学校時代の記憶が薄まっている理由はあるのだが。
「・・・・・・・・・・・ねえ、影人」
「ん? 何だ暁理。一応言っとくと、俺もまだ何が何だか分かって――」
すると、今まで黙っていた暁理が顔を俯かせながら影人に近づきそう声を掛けてきた。影人は暁理に言葉を返そうとしたのだが、影人が言葉を述べ終わる前に、暁理は影人の肩を右手で掴んできた。
「さ、暁理・・・・? 急にどうした? 後、すっげえ肩が痛いんだが・・・・・・・・」
未だに顔を俯かせている暁理。だが、影人の肩を掴む力は凄まじく、はっきり言って痛い。そんな友人は顔を上げると、完璧な笑顔を浮かべながらこう言った。
「いやー驚いたよ。まさか君があの歌姫と面識があったなんてね! しかも電話番号とメアド貰ったみたいじゃないか! よかったね影人! 本当、よかったねえ?」
「いや、だから俺は歌姫サマと会った記憶は・・・・・って、俺の肩掴みながらどこ行くんだよ!? 後、本当に肩痛いからやめろ!」
暁理は笑顔で肩を掴みながら、どこかへと向かって歩き始めた。暁理に肩を掴まれている影人は必然暁理の後を歩かされる形になる。
「なに、ちょっと休憩がてら、近くのファミレスに行こうと思って。バス降りてこの学校に着く前にあったでしょ? そこでじーっくり尋問・・・・じゃなかったお話しようよ。大丈夫、今日という日はまだ長いよ」
「い、いや俺覚えないんで、する話はないと思いますよ・・・・・・・?」
暁理は変わらずに影人の肩を掴みながら、そんな事を言った。その暁理になぜか恐怖を抱いた影人は、自然と友人に対して敬語を使っていた。
「だとしても君が歌姫からアプローチされた事には変わりないよ。ほら、キリキリ歩いて!」
「理不尽だろ!? ああ、くそ・・・・・今日は厄日だ・・・・・・・・・」
全てを諦めたようにそう呟きながら、影人は暁理に連行されるのであった。
「へえー、ここがシェルディア様とキベリアくんが住んでる場所かあ。西洋風でいい感じの部屋ですね」
「ふふっ、そうでしょ?」
響斬の賞賛の言葉を聞いたシェルディアは、嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。




