第527話 歌姫オンステージ3(2)
「はあ? 君はいったい何を言ってるんだ? 影人、さっさと手を振り解きなよ。今なら出来るだろ?」
「いや、別にそうなんだが・・・・・・・」
なぜか暁理から睨まれた影人は、困惑したようにそう言った。確かに今ならば、影人は少女に握られている手首を解けるだろうが、影人は少女から別段悪意も害意も感じなかった。そのため、積極的に手首を振り解く気も、影人はあまり起こらなかったのだ。
ちなみに、影人が知る由もないが、暁理が影人を睨んでしまった理由は、影人が自分以外の女性に長時間(暁理の主観で)触れられているから、といったもので、何とも可愛らしい理由である。
「あっ、ごめんなさい! ずっと握りっぱなしで! 後ちょっと待って! 今、変装解くから・・・・!」
「「変装・・・・・・・・?」」
慌てたようにずっと握っていた影人の手首から自身の手を離し、そう言った少女の言葉に、影人と暁理が疑問の表情を浮かべる。2人が見つめる中、ソニアはキャップとメガネを取った。
「は・・・・・・・・・・・・?」
「え・・・・・・・・・・・・?」
少女の普段の姿が露わになる。オレンジ色に近い長髪の金髪に、整った顔立ち。キャップとメガネを取っただけで、彼女の華やかなオーラが解放されたように感じられた。
影人と暁理は、放心したように声を漏らす事しか出来なかった。だが、それも当然だろう。
なぜなら、そこにいたのは世界の歌姫の呼び名を持つ少女であり、超有名人。つい昨日、彼女が数日後に日本で行うライブのため、来日したとの情報が様々なメディアで報じられたばかりだ。
「ど、どうかな? これで、私が乱暴するような者じゃないって分かってもらえた・・・・・?」
正体を明かした少女が、照れたような笑みを浮かべながらそう言った。いや、確かに彼女が乱暴するような怪しい者ではないという事はよく分かったが、問題はそこではなかった。
「な、何であんたがこんな所に・・・・・・・・!?」
「う、嘘だろッ!? まさか本物・・・・!?」
そう、問題は彼女の正体だった。なぜ彼女がこのような東京郊外の小学校の祭りにいるのか。
世界の歌姫として、日本だけでなく世界にその名を轟かせている少女の名は――
「「ソニア・テレフレア・・・・・・」」
「うん、正解♪」
呆気に取られた顔で、自分の名を呟く影人と暁理に、ソニアはそう言って笑うのであった。
(い、意味が分からん・・・・・何で『歌姫』がここに? というか、なぜ俺の手首を掴んでこんな場所に連れて来たんだ・・・・・・・・!?)
謎の少女の正体が、世界の歌姫であり、光導姫ランキング2位『歌姫』のソニア・テレフレアであると判明したことによって、影人は混乱していた。




