第525話 歌姫オンステージ2(6)
「ふふっ、いい天気ね。こういう日は、買い物と散歩に限るわね」
「ど、どこがですか・・・・・・・・こんなクソ暑い日はいい天気とは言いませんよ・・・・・あ、ああ、暑すぎて体溶けそう・・・・・」
影人たちが小学校の夏祭りに参加している時、影人の住む地域の賑わった通りを歩いている2人の人物がいた。1人は美しい金髪を緩くツインテールで結った豪奢なゴシック服を纏い、日傘を差した少女。もう1人は、深緑色の長髪のグラマラスな体型の黒いドレスを着た女性。シェルディアとキベリアである。
「情けないわね、キベリア。ほら、ちゃんと荷物持つのよ。落としたら承知しないわ」
「だから外ではキルベリアでお願いしますって、シェルディア様・・・・・・・・む、無茶言わないでくださいよ。今の私は力を封じてるただのモヤシなんですから。と、というか本当に重いんですが、せめて軽い方持ってくれませんか?」
暑さと両手に持つ荷物の重さで今にも死にそうな顔をしているキベリアが、懇願するようにそう言った。元々、キベリアが持っているこの買い物の荷物は、全てシェルディアが買ったものだ。なので、本来はキベリアが持つ必要など全くないはずなのだが、「あなた私の使用人でしょ。主人の物を持つのは当然よ」という理不尽な申し付けから、キベリアはシェルディアの荷物を全て持たされていた。
「嫌よ。別に荷物なんて影に入れとけばいいだけだけど、あなたに持たせてる方が面白いんですもの」
「ううっ、やっぱり理不尽だ・・・・・」
シェルディアにバッサリと拒絶されたキベリアは、泣きそうになった。これでも最上位闇人なのだが、シェルディアはそんな事は全く関係ないとばかりに、キベリアをコキ使う。間違いなく、シェルディアのメイドというのは、現代の日本で言うところのブラック職業である。
「ほら、次で最後なんだから頑張りなさい。いつもの雑貨屋に行って終わりだから」
「あっ、あの気のいい人間の店ですか。よし、ならちょっとは休める!」
シェルディアからそう言われたキベリアは、少しだけホッとしたような顔になった。シェルディアの言った雑貨屋は、シェルディアのお気に入りの場所でよく行く店なのだが、そこの店主は気のいいおばちゃんで、行けば必ずお茶を出してくれるのだ。そして、シェルディアとその女性は多少は世間話をするので、キベリアにとって休憩する時間は少しはあるというわけだ。
そういうわけで、少しだけ元気を取り戻したキベリアとシェルディアはその雑貨屋を目指した。といっても、その雑貨屋はこの大通りにあるので、あと5分くらいで着くのだが。
「さて、今日は何を買おうかしら」
「す、涼しい・・・・・・はあー、生き返る」
そして目的の雑貨屋にたどり着いた2人は、店内に足を踏み入れた。冷房の空気が心地いい。店内はいつもと変わらず雑貨屋らしく雑多としている。客はそれほど多くない。いても2、3人か。
「いやー、お兄さんの話は面白いね! 落語家にでもなったらどうだい?」
「ははっ、ぼかぁそういう柄じゃないので、無理ですかね。こう見えて、体動かす方がまだ得意でして」
「あら?」
「ん・・・・・?」
店内のレジカウンターで、女性店主が誰かと話しているのだろう。弾んだ声が奥から聞こえて来る。そして、その女性店主と話している男の声に、2人は聞き覚えがあった。
「シェ、シェルディア様・・・・・あのー、聞き間違いですかね? なんか聞いた事のある声がするんですけど・・・・・・・・・」
「奇遇ね。私も聞いた事のある声だわ」
キベリアがまさかといった感じで、シェルディアにそう確認を取ったが、シェルディアは笑みを浮かべてそう答えるだけだった。
「とにかく見てみない事にはわからないわ。さあ、確認しに行くわよ」
「あ、ちょ、シェルディア様っ!」
そう言って、ズカズカと店の奥に行くシェルディアの後を、慌てたようにキベリアも追いかけていく。この店のレジカウンターは、奥の方に位置しているので、入り口からは店主と話をしている人物の姿は見えないのだ。
シェルディアとキベリアはレジカウンターの場所まで移動した。すると、そこには――
「あ、シェルディアちゃんが来たよ、お兄さん!」
シェルディアたちの姿を確認した女性店主が、今まで話をしていた人物にそう声を掛ける。そして、シェルディアたちの姿を確認したその青年は、どこか感慨深げにこう言葉を述べた。
「本当ですね。いやー、ここ数日頑張った甲斐があったなー。人間時代だったら、たぶん過労死してたけど・・・・・・お久しぶりです、シェルディア様」
「ええ、随分と久しぶりね・・・・・・・・・響斬」
ジャージ姿の糸目の青年、キベリアと同じく最上位闇人の響斬がそこにはいた。




