第522話 歌姫オンステージ2(3)
「仲がいいのは、まあ事実ですし。ただ、俺と暁理はそういうんじゃないってだけです。・・・・・・・じゃあ、すみません。俺たちもまた他の場所を回りたいので、ここら辺で失礼させてもらいます。久しぶりに会えてよかったです。おい、暁理。いつまで壊れた機械みたいになってんだ。次行くぞ」
影人は春子にそう言って軽く頭を下げると、隣の暁理の方を見た。暁理はさっきの春子の彼女云々の言葉を聞いてから、「僕が影人の彼女・・・・? ぼ、僕が・・・・・・? か、彼女・・・・・・・」とポカンとした顔で、同じ言葉を何度も繰り返しており、壊れた機械のようになっていた。
「あら、もう行ってしまうの? 寂しいけど仕方ないわね。帰城くん、多分私は来年もまだこの学校にいるだろうから、またお祭りの日に会いに来てちょうだいね」
「ええ、もちろんです。また来年。では失礼して」
「あっ・・・・・ち、ちょっと待ってくれよ影人! 僕はまだ色々とこの人に聞きたい事が・・・・・・って、僕を置いていくな!」
寂しそうな顔を浮かべる春子に、影人は笑ってそう言うと教室を出た。暁理はまだ直る素振りもなかったので、そのまま置いていこうとしたのだが、慌てて影人を追いかけてきた。
「影人とりあえずその前髪の下見せてよ! 君が実は隠れイケメンだったとか信じられない! というか腹立つ!」
「絶対嫌だ。後、何で腹立たれなきゃならねえんだよ。理不尽だ」
廊下に出た暁理は突然そんな事を言ってきたが、影人は暁理のその頼みを即座に却下した。自分の素顔が露わになるのは、仕事の時だけ、それで充分だ。まあその素顔も、それが影人の顔だとはソレイユとイヴ以外認識できないが。
「それより次はどこ回るよ? まだ校舎内も色々とあるぜ」
「露骨に話を逸らすなよ。全く・・・・・まあ、別に僕は君の顔なんかどうでもいいけどさ」
プイと影人から顔を逸らしながら、暁理はそう呟く。暁理が影人に心惹かれたのはその内面だ。だから、本当に顔はどうでもいいのだ。ただ、やはり気にはなるが。
「結局どっちなんだよ・・・・・・・意味分からん奴だ」
「それで結構さ。んー、次は――」
そんな会話をしながら、2人はパンフレットを見て次にどこに行くかを検討し合った。
「ふふっ、楽っのしいー♪ 久しぶりの日本、久しぶりのお祭り、最高だわー♪」
両手に食べ物を持ったソニアは、ニコニコとした顔でそう呟いた。
変装したソニアは誰にも正体がバレる事なく、小学校の夏祭りを堪能していた。
「といっても、楽しい時間はすぐに過ぎるもの・・・・・・・・何だかんだで、時間も残り10分くらいだし・・・・・最後はどこに行こっかな」
ソニアは自分の腕時計を見ながらため息を吐いた。ソニアが祭りに参加できる時間は1時間。そして、現在は祭りに参加して50分経過していた。
「うーん、まだ回りたいところはいっぱいあるけど・・・・・・・・ん? ここの作品展示って・・・・・・・あ、懐かしい! そういえば、図工で作った作品とか、習字で書いたやつなんかは、ここに飾られたのよね! よし、最後はここ行こうー♪」
パンフレットを確認していたソニアは、最後に訪れる場所を決めた。校舎内は飲食厳禁なため、持っていた食べ物をペロリと平らげ、ソニアは校舎に入り、目的の教室を目指した。




